口に入れた瞬間は甘酸っぱく、噛むうちに苦くなったり辛くなったり変化して、やがて濃厚な旨味が出てくる。三浦しをんの長編『ののはな通信』を食べ物にたとえると、そんな感じだろうか。1960年代末に生まれた二人の女性の半生を描く書簡体小説である。
主人公は野々原茜と牧田はな。横浜のミッション系お嬢様学校に通う二人は、お互いを「のの」「はな」と呼び、手紙を交換する。あまり裕福ではない家庭に育ち、頭脳明晰・成績優秀で毒舌家の「のの」。代々が外交官の家庭に生まれて、天真爛漫な帰国子女、「はな」。対照的な二人は親友になり、やがて恋人同士となる。少女たちの冒険と官能の日々。
なんだかコバルト文庫を読むようなくすぐったさ。鈴木久美によるかわいらしい装幀も含めて、還暦ジジィのぼくにはちょっとキツいかも……と思っていたら急展開。ある裏切りによって少女たちの甘美な世界は崩壊していく。
第一章は二人が高校生だった1984~85年を、第二章は大学生時代の88~89年を描き、第三章と第四章は一気に20年飛んで2010年と11年を描く。この第三章が圧巻だ。フリーのライターとして東北を取材する「のの」。外交官と結婚し、大使夫人として政情不安なアフリカの小国に赴いた「はな」。長いメールのやりとりが遠く離れた二人をつなぐ。ともに世界の状況と無縁ではいられない。互いの来し方と現在を語るその文章には、相手への気づかいや愛情、そしてなじるような気持ちも込められている。
三浦しをんの最高傑作ではないだろうか。
※週刊朝日 2018年6月29日号