いとうせいこうの近未来小説『小説禁止令に賛同する』によれば、2036年、アジアの戦争に敗れた日本は東端列島と呼ばれ、中国を中心とする亜細亜連合の傘下にある。

 主人公の75歳の作家「わたし」は12年前に日本政府から言論弾圧を受けて投獄され、敗戦後も獄中で過ごしている。そして、新たな統治者が「小説禁止令」を発布すると積極的に支持し、収監者向けの小冊子『やすらか』に、「小説禁止令に賛同する」と題した随筆を連載。読者の想像力をたくましくさせ、現実逃避を助長し、文字は万能だと思わせてしまうような小説の危険性を、著名な作品をいくつも引いて論じていく。

 当局の検閲があるため、わたしの文章にカタカナは出てこない。伏せ字も混じる。しかし、わたしが小説の構造や技術を分析して冷笑すればするほど、小説の魅力が具体的に伝わってくる。この反語的な効果は当局も気づいていて、原稿の検閲後に彼らが付した( )の中身を見ると、わたしは毎回、薬物投与などの処罰をくらっている。それでもわたしは書きつづけ、ついには、架空の小説『月宮殿暴走』を論じる設定で創作をはじめる。

 いとう自身がモデルと思われる主人公がどんな処罰を受けるかは伏すが、この奇妙な作品が放つ緊張感は、現在の国内外の政治状況を反映しているからだろう。

 役人が公文書を改竄し、その責任をリーダーが負わない国家、日本。私たちは、すでに戦前に生きているのかもしれない。そう考えれば、いとうが描いた不吉な近未来が骨身にしみてくる──作家は検閲をくぐり抜けるべく覚悟し、準備せよ。

週刊朝日  2018年5月25日号

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