ともに全盲である弁護士と声楽家の夫婦が、半生を振り返る。見えない苦しみを抱えながらも夢を実現し、恋に落ち、結婚。現在は2児の親だ。人生の局面ごとに、それぞれの視点から書かれた短い手記を連ねる。

 幼い頃から顔見知りだった二人は20代で趣味の音楽を通じて再会し、交際が始まる。互いに「ずっと一緒にいたい」と願ったが、しばらくは見えない者同士で家族になる自信が持てなかった。母親の死に直面した夫が、最愛の相手を悟り、結婚の決断をする。

 終盤では、育児に奮闘する様子が伝わってくる。内面を吐露する記述が多かった本書に、夫婦で外出した時のドタバタや「子の爪切りをマンションの隣人に頼んだ」といった現実的な話題が増える。苦心して築いた家庭でのにぎやかな日常に、心が温まる。

週刊朝日  2018年3月16日号