
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年9月1日号には清水建設 技術研究所グループ長 辻埜真人さんが登場した。
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コンクリートの表層にできやすい気泡の痕。コンクリートが固まる過程で発生するが、建物の美観を損なうため、対策の研究が進んでいる。
その課題を生き物の特長を生かし、技術開発や製品に生かす「バイオミメティクス」(生物模倣)で解決した。注目したのは、ハスの葉のはっ水性だ。
ハスの葉の表面には無数の細かい凸凹がある。それぞれの表面にさらに微細な突起がある。この二重構造が水をはじき、水滴にして流す。
この表面構造を人工的に再現した特別なはっ水剤を、コンクリートを流し込む型枠に活用。型枠に塗布することではっ水層ができ、コンクリートの内部から押し出された気泡を除去する。
さらに、コンクリート表面に転写された微細な凹凸が光を乱反射させるため、色むらの少ない明るい仕上がりになると評判だ。
型枠にはっ水剤を利用するというユニークな発想は、大好物のヨーグルトを食べている時に思いついた。最先端の内ぶたにはヨーグルトがつきにくいが、これを型枠に当てはめられないか、と考えたのがきっかけだった。
ふたを開発した東洋アルミニウムにすぐに連絡を取り、共同開発が始まった。ただ、工場内で管理されたふたとは違い、建設現場にある型枠にはほこりや傷がつきやすい。微細な突起が壊れると、はっ水効果が弱まってしまう。何度も工夫を重ね、傷がつきにくい仕様を実現した。
この技術は木目を表面に転写する「木目調コンクリート」の美観を高める効果もあり、皇居三の丸尚蔵館のほか、大学やホテルなど40件以上の物件に採用されている。独創的で画期的だと評価され、2024年4月には日本建築学会賞(技術)を受賞した。
コンクリートに愛着をもってもらおうと、研究を続けてきた。ひび割れを低減させた高品質コンクリートの開発や、コンクリートに二酸化炭素を取り込む技術の研究など、テーマが尽きることはない。
「社会資本の根幹をなす材料、コンクリートをこれからも進化させ続けたい」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2025年9月1日号
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