アグネスさんは若い頃は仕事と子育てに追われてなかなか帰郷できなかったと振り返ります。photo 本人提供
アグネスさんは若い頃は仕事と子育てに追われてなかなか帰郷できなかったと振り返ります。photo 本人提供

同じ話を繰り返す母にイライラしたことも 

 ただ、子育てが“上り坂”なら、介護は“下り坂”。

 子どもは少しずつできることが増えていきますが、介護は少しずつできなくなっていくのを見守ることになります。だからこそ、「耐える力」も必要になってきます。

 母は晩年、同じ話を繰り返すようになりました。

「あなた、子どもは何人?」と何度も聞かれ、「3人の男の子です」と答えると、「女の子はいないの?今からでも産めば?」と。「60歳を過ぎているので無理ですよ」と返すと、「あら、それは無理ね」と笑い、15分後にはまた同じ会話。

アグネスさんの新著「70歳、ひなげしはなぜ枯れない 心も体もしなやかでいるための45のヒント
アグネスさんの新著「70歳、ひなげしはなぜ枯れない 心も体もしなやかでいるための45のヒント

 最初は少し寂しかったし、「さっき話したばかりなのに」と、イライラすることもありました。でも途中から、「この話をしている母が楽しければ、それでいい……」と思えるようになったのです。

 母がその5分、10分だけでも楽しく過ごせるなら、それが何度繰り返されても、一緒に楽しめるようにしよう、と。

小さい頃に、母がしてくれたように

 そう思うようになってから、心がすごく楽になりました。それから、母に歌を歌ってあげると、とても喜びました。私が小さい頃に、母がしてくれたように。

 何曲も歌ってあげて、終わりにしようとすると、「もっと歌って」というかのように手をギュッと握ってきます。

 そんなときはまるでミニコンサートのように歌い続けました。母が笑ってくれて、嬉しそうにしてくれる─そんな日は、私も一日中、晴れやかな気分で過ごすことができました。

こちらの記事もおすすめ 3男1女東大理Ⅲ合格の佐藤ママが「海外進学は考えなかった」ワケ 息子3人スタンフォード大のアグネス・チャンと対談
[AERA最新号はこちら]