明治大学農学部の作山巧教授(本人提供)
明治大学農学部の作山巧教授(本人提供)
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 7月3日公示、同20日投開票の参院選はコメの高騰がおさまらないなかで行われる。日本の稲作そして農業の将来像についての議論になるのか、元農水省官僚で明治大学農学部の作山巧教授に聞いた。

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 コメ不足を発端とするコメの高騰の原因の一つに、作山教授は政府や農協による事実上の減反(生産調整)政策があることをあげる。

 2018年に行政が主導する生産調整の目標配分は廃止された。生産調整廃止に向けた「第一歩」との見方もあったが、その後、大きく進展することはなかった。農水省は国内の需給見通しを作成し続け、毎年、約3千億円の転作補助金も交付し、コメの価格を維持しようとした。その結果、生産量は減少し続けた。肝心の価格も低迷した状態で「令和のコメ騒動」を迎えた。

「政府や農協による事実上の減反(生産調整)政策があることは明白だ。減反政策を続ける限り、今回のようなコメ不足と価格の高騰は今後もあり得る」

 作山教授はこう指摘する。価格を維持することを優先し、生産を抑制すると、もし全国的な天候不良などが起きれば、コメ不足になりやすい。

 作山教授は、減反廃止の代替策として農家の所得補償制度をあげる。

「減反をやめて、コメの生産を農家の自由な判断に任せ、不作や価格の急激な下落時のために所得補償制度を整えるという考えもある。もちろん、所得補償は国民の税金を使うことになるので、これは有権者の判断が必要だ」

 所得補償制度をめぐっては、石破茂首相もかねて関心を示している。7月1日にあった政府のコメ政策に関する閣僚会議で石破茂首相は「生産者の皆様の所得が確保され、不安なく増産に取り組みるような新たなコメ政策に転換する」と述べた。所得補償制度に意欲的ともとれる内容だ。

 4日に公示される参院選を前に作山教授はこう期待する。

「減反の継続か、それとも減反廃止に伴う所得補償か、は立派な対立軸で、国民の選択にふさわしい。今後、日本の稲作や農業をどうするのか、ぜひ参院選で議論になってほしい」

 参院選には全国農業協同組合中央会(JA全中)の政治団体が推薦する新顔の東野秀樹氏(53)が立候補する(自民公認、比例)。

農協は2007年から5回連続で参院選で独自候補を擁立し、いずれも当選させてきた。だが農家の減少も影響しているのか、07年以降、選挙のたびに得票数は減っている。今回はコメ高騰の影響もあるとみられ、陣営は危機感をにじませている。

「生産者団体として『自らの思いを少しでも国政に』と、農協組織が組織内候補を出すことは理解する。ただ、当選したとしても政策に大きな影響を与えることは難しいのが現実だ。実際、第2次安倍政権は、規制緩和を進めるため、官邸主導で農協改革に打って出た。官邸の力が高まっていて、自民党農林部会の議員たちもこの流れに乗らざるを得なかった」

作山教授はこう述べて、当落によって今後の農政改革に大きな影響が出ないとみている。

(経済ジャーナリスト 加藤裕則)

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