作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 英国は、世界で初めて孤独問題担当大臣を置いた国だ。続いて2番目に同様の大臣を設置したのは日本だった(現在は廃止)。今や孤独は世界的な政治課題だが、Metaのザッカーバーグは、AIが人々の友達になることで解決できると言う。「孤独の蔓延」は、「自分をよく知っていて、フィードアルゴリズムのように自分をある程度理解しているシステム」と友情を築くことで緩和されるというのだ。

 数カ月前に日本の20代の女性たちとのオンライン座談会に参加した時、ChatGPTに悩みを相談しているという人が多数派だった。英国の国民的ドラマ「EastEnders」にも、チャットボットに名前をつけて友人にしている少年が出てきたし、AIとの関係が自分にとってリアルならそれでいいという見解も見聞きするようになった。

 その一方で、AIには他者と接する時に必要な、ある能力に問題があるという。それは、エンパシーだ。人間とは大きなギャップがあるという。GPT-4oは、相手のネガティブな感情(悲しみなど)には、過剰にエモーショナルに反応するそうだ(相手が女性だとわかると顕著にそうなるという)。AIは、感情的になる真似はできても認知的エンパシーの深みに欠けると、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のサイトが伝えている。調査を行った研究者たちは、メンタルヘルスなどの医療ケアで、人間をAIで置き換えるべきではないと主張する。

 エンパシーは「他者への想像力」だが、AIは人間としての経験をそのベースに使えない。代わりに与えられた膨大なデータを使う。そのAIに認知的エンパシーが欠けるというのは、この能力の発揮にはある種の主観性や自己認識が必要ということではないだろうか。

 AI(アーティフィシャル・インテリジェンス)ならぬAE(アーティフィシャル・エンパシー)という言葉も耳にするが、人工エンパシーはその嘘くささゆえに孤独感を増大させることにならないか。それに、今後改良が進んで本物っぽさを増したとして、AIがあれば人間は要らないという孤立した層を増やす結果になるのなら、孤独問題はさらに深刻化しそうだ。

AERA 2025年6月2日号

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