『THE 30TH ANNIVERSARY CONCERT CELEBRATION』BOB DYLAN
『THE 30TH ANNIVERSARY CONCERT CELEBRATION』BOB DYLAN
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『THE 30TH ANNIVERSARY CONCERT CELEBRATION』BOB DYLAN [Blu-ray]
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 ボブ・ディランが米コロムビアからセルフ・タイトル・アルバムでデビューをはたしたのは、まだ二十歳の青年だった1962年春。それからちょうど30年後ということになる92年の秋(10月16日)、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで大規模な記念コンサートが行なわれている。

 テーマはもちろん「ディランの音楽家・詩人としての素晴らしさ、社会的貢献などをあらためて顕彰する」こと。企画・運営はマネージメント・サイドが中心になって進められたもののようで、ジョニー・キャッシュやウィリー・ネルソンからパール・ジャムのエディ・ヴェダーまで新旧世代のアーティストがつぎつぎに登場して、あくまでも自身のカラーを生かしたヴァージョンでディランの曲を歌い、最後に本人が登場するという構成がとられていた。ハウス・バンドはブッカーT&ザ・MGs+ジム・ケルトナー。ミュージカル・ディレクターは、ホール&オーツや『サタデイ・ナイト・ライヴ』などで経験を積んできたギタリスト、G.E.スミス。どんなアーティストの、どんなヴァージョンにも対応できる鉄壁の態勢で臨んだわけだ。

 作品化にあたっては、コロムビアのスタッフとして『デザイア』などに貢献したドン・デヴィートがプロデュースを手がけ、翌93年夏に2枚組CDとVHSソフトがリリースされている。2014年にはDVD/ブルーレイ化が実現し、同時にCD版も、2つのリハーサル・テイクをボーナス・トラックとして加える形でアップグレードされた。

 スティーヴィー・ワンダーは「残念ながら、この歌は今の時代にも意味を持ちつづけている」と語ってから《ブローイン・イン・ザ・ウィンド》をいかにも彼らしいスタイルで歌い、その普遍的メッセージを強調するだけでなく、音楽そのものとしての素晴らしさもアピールしている。オージェイズの《エモーショナリー・ユアーズ》もそうだが、彼らのライヴからは、あまり使われることのない「メロディメイカーとしてディラン」というフレーズが浮かび上がってくるようだ。

 エリック・クラプトンは、《プレゼンス・オブ・ザ・ロード》を書くとき意識したと思われる《ドント・シンク・トゥワイス、イッツ・オール・ライト》をブルージィに歌い、強烈なソロを聞かせている。ニール・ヤングは、ジミ・ヘンドリックスにも捧げるようにして《オール・アロング・ザ・ウォッチタワー》。ザ・バンドはオーガニックなアレンジで《ホエン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース》。ロジャー・マッギンはザ・バーズの出発点ともなった《ミスター・タンブリン・マン》。ジョニー・ウィンターの《ハイウェイ61リヴィジテッド》、ロン・ウッドの《セヴン・デイズ》、クリッシー・ハインドの《アイ・シャル・ビー・リリースト》…。誰もが、そこに招かれたことを光栄に感じながら、ディランの歌と向きあっている。

 終盤、ジョージ・ハリスンの紹介を受けてボブ・ディンが登場し、アコースティック・ギター一本で《イッツ・オーライト、マ(アイム・オンリー・ブリーディング)》を歌うと、そこにヤング、クラプトン、ハリスン、マッギン、トム・ペティが加わって超豪華オールスター版の《マイ・バック・ペイジズ》。さらに出演者ほぼ全員で《ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア》を歌うのだが、この曲と《マイ・バック・ペイジズ》は、クラプトンとヤングの二人がリード・ギターを聞かせるという、きわめて貴重なテイクに仕上がっている。
 最後は、ふたたびアコースティック・ギター一本に戻り、歴史的な記念コンサートは《ガール・フロム・ザ・ノース・カントリー》で幕を閉じた。あれから四半世紀。出演者のうちの、けっこうな数の人たちがもうこの世を去っている。あらためて時の流れを実感した次第。[次回12/7(水)更新予定]