
Z世代の女性向けエッセイ投稿サイト「かがみよかがみ(https://mirror.asahi.com/)」と「AERA dot.」とのコラボ企画は第6弾。「名字について思うこと」をテーマに、エッセイを募集しました。多くの投稿をいただき、ありがとうございました。
投稿作品の中から優秀作を選び、「AERA dot.」で順次紹介していきます。記事の最後には、鎌田倫子編集長の講評も掲載しています。
ぜひご覧ください!
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マンホールを踏んだら自分の名前を脳内で3回唱える。するといいことがあるらしい。
そんなジンクスを20年ほど信じて実行している。
私は「貴田明日香」として活動している映像作家だ。仕事の場ではそう名乗っているし、初めてエンドクレジットに載ったときから、一生この名前でやっていこうと決めている。
だから、マンホールを踏んで頭の中で唱える名前も未だに「貴田明日香」だ。
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でも、本名ではない。本名は「山田(仮称)明日香」になった。結婚してはや5年。
「山田さん」と呼ばれる場は少ないけれども、役所などの公的な場ではもちろん「山田さん」と呼ばれている。
プライベートでは山田、仕事では貴田。それでよかった。私の貴田としてのアイデンティティはそれで十分守られていると思っていた。
しかし、近い未来、常に「山田」と呼ばれるようになる……と思う。なぜって、ママになるつもりだから。
例えば子どもが生まれて、保育園に預けるとする。そのとき、私は山田〇〇ちゃんのママとして認識され、貴田であった過去や、やっている仕事などは考慮されない。完全に山田家の嫁であり、母という立場になる。
今はいい。仕事で名前を呼ばれる機会の方がずっと多いから。でも、これから子育てをしていったり、例えば町内会やPTAに入ったとき、私の存在はどんどん「山田明日香」に吸収されていくだろう。
そのことにとても心細さを感じる。母が旧姓だったころの人生を私はほとんど知らない。私の子どももそうなるのではないかと思う。