
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年2月24日号には伊勢大神楽講社 大神楽師・法人代表理事 山本勘太夫さんが登場した。
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かつてお伊勢参りに行けない人のために地方を巡行し、厄払いの獅子舞を舞い、放下(ほうか)という曲芸にかけあい漫才やお囃子を交えた芸能で人々を楽しませ、450年を超えて今に伝える伊勢大神楽。
「娯楽と信仰があわさった江戸期の姿のままやっています」
現在も活動する五つの家元のうち、若手の多い山本勘太夫社中を率いる。家元に生まれたが自分の代で世襲制度を廃して仕組みを変え、一般社団法人を立ち上げた。
「大神楽師は日本に30人ほどの稀少職。法人の目的は後継者の育成と文化保全です」
高齢化で担い手不足の状況を危ぶみ、動画などで情報発信に力を入れ、法人化によって雇用形態も正社員として整えた。興味を持った高校生や大学生が在学中に見習いに来たり、卒業後に志を持って入門する人が出てきたりと社中が若返った。みな、旅の中で芸を覚えていく。
「伊勢大神楽は、放下と呼ばれる至極の芸や舞の遣い手として、古典芸能としての歴史の比重が非常に大きい。歌舞伎など舞台芸能者と違い、村を一年中旅するところに生活の実質があります」
年間200日ほどは旅、仕事の8割以上が家まわりで一日平均120軒、多くて300軒ほど訪問する。主に西日本の「檀那場(だんなば)」と呼ばれる代々通う旧村に連れ立って訪れて家々のおはらいをし、初穂料としてお金やお米を受け取り、お札を渡す。人々は「おししの日」と言って楽しみに待つ。
お祭りなど年中行事と組み合わせた訪問も多く、毎年通い続けることが「村の文化保全」になるという。「深く村に寄り添い、村人のような目線で村々の未来と向き合う」意識を持って各地に足を運ぶ。
「核家族化で村の中の伝承が薄くなる中で、自分を通じてできる伝承があります。訪れた日はあえて屋号や旧村名で話したり、あなたの家は昔ひいおばあさんがお茶屋さんをやっていましたよ、など今の人が知らない家の記憶を伝えたりします。年に1日だけ関わる自分にも守れるものがあるし、そうして村を理解している人が演じる芸に値打ちがあると思ってやっています」
「仕事というより生き方に近い」という大神楽師。そんな稀有な職が若者の就職先の一つとなる道を開いた今、獅子とともに未来へ歩いていく。(ライター・桝郷春美)
※AERA 2025年2月24日号