昭和のころ、菓子パンといえば、あんパン、ジャムパン、クリームパン、豆パン……。豆パン??
北海道で菓子パンベスト5に必ず入る豆パンは、コッペパンの生地に甘納豆が練りこまれた菓子パンの代表選手です。この、あまりにも身近に存在する豆パンが北海道にしかないパンだなんて、たぶん北海道民は気づいていないのではないでしょうか。
北海道では金時豆の収穫がピークを迎えていますが、北海道民が愛する「豆パン」とは、いったいどんなパンなのでしょう。
袋入りで売られてこそ「豆パン」。こだわり食材の豆パンとはちょっと違うんだなあ
北海道民が言うところの「豆パン」は、今から70年以上も前、戦時中からあるといわれています。コッペパンの生地に甘納豆が練りこまれていて、丸い形をしている、とても素朴なパンです。他県には、表面に甘納豆が並べられている豆パンもありますが、パン生地に練りこまれているのが、北海道の豆パンの醍醐味です。
最近では都会のオシャレなパン屋でも、甘納豆を練りこんだり、はさんだりしている豆パンが販売されているようですが、北海道における豆パンは昔から、アンパン、ジャムパンと並んで、スーパーなどでごく一般的に売られています。コッペパンの生地に甘納豆が練りこまれているパンで、袋入りで売られている、というような位置づけです。街のオシャレなパン屋で、こだわりの小麦粉と材料を使って作られた“進化系”の豆パンは、北海道民にとっては豆パンとは思えません。
「豆パン」が全国区であると信じている北海道民。給食にも当たり前に出ている
豆パンは学校給食でも当たり前のように採用されていて、子どものころからおなじみの味です。まさか豆パンが、北海道でしか作られていないとは…。北海道民はたぶん、考えもしていないでしょう。それほど身近すぎるパンなのです。
北海道で大手のパンメーカーといえば、全国区の山崎パンをはじめ、日糧製パンやロバパンがあります(たぶん、北海道民の多くは、日糧製パンとロバパンを全国区だと信じていると思います…)。山崎パンでは「しっとり3色の豆パン」という、豆パンの進化系を販売していますが、日糧製パンやロバパンでは、昔ながらの金時豆の甘納豆の豆パンを販売しています。また、北海道の巨大ローカルコンビニ「セイコーマート」でも、甘納豆がゴロンゴロンと入っている豆パンを販売しています。写真のように、丸い形で、袋に入って売っているのが、北海道民がいうところの「豆パン」です。
「○○屋の○○パン」という“ご当地パン”と違い、豆パンは菓子パンの種類
ご当地パンというと、よく「○○県の○○屋の○○パン」というように、ある1軒のパン屋が販売しているパンを指すことが多いですが、北海道の豆パンは、1軒のパン屋で販売しているものではなく、「豆パン」という、パンの種類を指します。大手パンメーカーをはじめ、街の個人経営のパン屋でも、普通に販売しています。
日本には、秋田県・たけや製パンの「学生調理」や、滋賀県・つるやパンの「サラダパン」のように、数々の有名なご当地パンがありますが、調理パンはお菓子と違って日持ちがしないので、全国的に広まることなく、地域の中で独自の進化をとげてきたと思われます。
しかし、北海道の豆パンは、「豆パン」というパンの“カテゴリー”なので、よくいうご当地パンとは、少しニュアンスが違います。大手メーカーから個人経営のパン屋、給食と、あらゆるパン屋で普通に売られていて、あそこの豆パン、ここの豆パンというふうに、いろいろな味の豆パンを楽しむことができます。
北海道ではお赤飯にも甘納豆。どれだけ甘納豆が好きなのか
お赤飯に入っている豆はふつうは小豆ですが、北海道ではお赤飯に甘納豆が入っています。甘い甘納豆が入っているお赤飯に、ごま塩をかけて食べます。甘い味としょっぱい味の両方の味がするお赤飯です。金時豆の大生産地である北海道であるがゆえなのか、豆パンといいお赤飯といい、甘納豆を使ったレシピが独自に進化をとげたようです。
秋の今ごろは、北海道では豆類の収穫がピークを迎えます。しかし、今年の金時豆は、夏の天候不順や台風の影響で、作柄が最悪の出来といわれています。全国で最大の産地である十勝でも、金時豆は品質も収穫量も平均を大きく下回り、新豆はかなり少なくなるようです。ただ、去年の在庫があるので、市場に出回る量は減ることはありませんが、来年度以降の金時豆が心配です。来年は北海道民が愛する豆パンやお赤飯にも影響が出るかもしれません。
〈参考サイト:「WEB十勝毎日新聞社ニュース、2016年9月27日、金時豆 収量、品質「最悪」、台風と天候不順〉