
第2のホワイトハウス
今後、「米大統領」という権力的な地位に対する問題も浮上していくだろう。
トランプ氏が20年大統領選挙での敗北を覆そうと、21年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件を引き起こしたとして起訴された事件を2年間捜査してきたジャック・スミス前特別検察官の最終報告書の一部が14日、公表された。「裁判で有罪判決を得るのに十分な」証拠があったとし、24年大統領選で当選していなければ「有罪」となっていたという報告だった。
スミス氏は、「トランプ氏の24年の当選と、間近に迫った大統領復帰がなければ、裁判で有罪判決を獲得し、それを維持するのに十分な証拠があったというのが検察の見方だ」と報告している。
20日の就任式を目前に、第2のホワイトハウスと化したトランプ氏のフロリダ州の別荘「マールアラーゴ」から、プレスリリースや偽・誤情報が日々発信される。通常の政権交代であれば、新閣僚の指名が淡々と発表されるだけだ。しかし、マールアラーゴからは、それに加えてSNSの頻繁で、そして雑多な発信がある。政権が関わっていない案件であっても、ロサンゼルスの山火事でカリフォルニア州の民主党州知事を批判し、バイデン政権の国境政策をなじる。24時間SNSでトランプ氏の発信を見ていると、もはや誰が現職の大統領なのかもわからなくなってくる。
危険な寡頭制への警告
加えて、マスク氏やザッカーバーグ氏などSNS王者がトランプ氏を支援し、彼の情報発信を助ける方針を企業としてコミットしている。
バイデン氏は15日、退任演説を行った。米国で少数グループに権力などが集中する「危険な」寡頭制が形成されつつあると警告し、過去の退任演説に見られないほど暗い幕引きだった。
バイデン氏は「私たちが共に成し遂げたことで、全ての影響を感じるには時間がかかるが、種は植えられ、成長し、数十年にわたって花を咲かせるだろう」と締めくくったが、トランプ政権下で、花は咲くのだろうか。
さらに、「この国を守ろう」とも呼びかけたが、その国は果たしてトランプ氏のポスト・トゥルースに打ち立てられたディストピアで、民主主義を守っていけるのかどうか、不安と不穏な新政権発足を迎える。
(ジャーナリスト 津山恵子〈ニューヨーク〉)
※AERA 2025年1月27日号掲載

