次期米国大統領ドナルド・トランプ氏の大統領就任式の準備が進む米ワシントンの連邦議会議事堂=2025年1月15日(写真 ロイター/アフロ)
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 1月20日の大統領就任前から雑多な発信を続けるトランプ氏。就任式間近の米国内の空気を現地のジャーナリストが報告する。AERA 2025年1月27日号から。

【写真】“へつらい”が世界を捻じ曲げる トランプ大統領再就任前夜の米国内で渦巻く不安

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「そういう意見については、私は知りません」

 トランプ氏に司法長官候補に指名されたパム・ボンディ前フロリダ州司法長官(59)は1月15日、2020年にトランプ氏が大統領選挙で敗北した事実を認めるかという議員からの質問を何度も否定した。嘘、偽りは述べないという宣誓の下で証言する米議会上院司法委員会の公聴会の場でだ。神への宣誓を破ってまでも、トランプ氏が「20年選挙は票が盗まれた」とする主張に忠誠を尽くし続けたわけだ。その彼女が、共和党多数の議会で、法と秩序を徹底させる司法省のトップに承認される見込みだ。

 20日に行われるトランプ氏の大統領就任式を前に、首都ワシントンで、いや世界中で異様な現象が広がっている。「トランプ・ワールド2・0」を形成するための序奏は、すでに十分に「ディストピア(反理想郷)」に突入している。法やルール、常識よりも、トランプ氏に対する忠誠と協調が世界的に重んじられる世界だ。それはもう始まっている。

停戦合意も自らの成果と主張

 同じ15日、米国は、イスラエルとイスラム組織ハマスが19日からの停戦合意に達したと発表した。米国内ではいまだに若者たちが、親パレスチナのデモを繰り返し、カフェなどに「フリー・パレスチナ」のポスターが目立つ中、待ちに待った停戦合意だ。だが19日はトランプ氏の大統領就任式の前日。すかさず彼は《この壮大な停戦合意は、私が大統領選挙で歴史的な勝利を収めなければ実現しなかった》とSNSに投稿、自らの成果と主張した。

 この主張に対し、バイデン大統領は会見で「これはあなた、それともトランプ氏のお手柄ですか?」と記者に聞かれて「それはジョークかい?」と切り返した。ブリンケン国務長官を頻繁にイスラエルに派遣し、一進一退の交渉を繰り返してきたバイデン政権。しかし、ニュースサイトAxiosなどによると、トランプ氏のSNSへの投稿が当事者を動かした可能性があるという。

 トランプ氏は昨年12月2日に《中東でその当事者たちが、私の大統領就任式までに人質を解放しなければ、地獄のような償いが待っているだろう》とSNSに投稿。これをきっかけにバイデン政権チームにトランプ新政権の中東担当が加わった、と仲介に当たったカタールの関係者が証言しているという。しかし、「地獄のような償い」が何なのか全く不透明であり、異例の停戦交渉プロセスであったのは間違いない。

 今後も、SNSを利用した政界ルールを逸脱するトランプ政治は、内政でも外交でも顕在化していくだろう。

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「権力を持った男性が、世界を焼き尽くす」