陸軍と海軍両士官学校のNCAAカレッジフットボールの試合を観戦するトランプ次期大統領(左)とイーロン・マスク氏(中)、ヴァンス次期副大統領=2024年12月14日(写真 AP/アフロ)

《全てが管の中を落下していくような状況を誰か気がついているだろうか》

 とコラムに書いたのは、英紙ガーディアンのライター、レベッカ・ショー氏。《権力を持った男性が、世界を焼き尽くすのを目撃するというのを私は知っていた》という記事だ。

 彼女が特に驚いているのは、億万長者の男性らがトランプ氏に「へつらい」、世界を捻じ曲げているという事実だ。

SNS利用者に衝撃

 米電気自動車(EV)大手最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は、新政権で政府効率化省のトップにつき、トランプ氏の家族同様の扱いを受けている。世界最大のショッピングサイト、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス、そして世界最大のSNS、メタ・プラットフォームズのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏らは、トランプ氏の大統領就任式に100万ドル(日本円で約1億5千万円)の寄付を行った。

 ザッカーバーグ氏は、フェイスブックなどで米国でのファクトチェックをやめ、X(旧ツイッター)が採用する「コミュニティノート」のシステムを導入すると発表した。コミュニティノートはユーザーが協力して、役に立つ背景情報を追加投稿する仕組みだが、ファクトチェックの機能はない。これは、世界のSNS利用者に大きな衝撃を与えた。ファクトチェックがある現在でも、人種やジェンダーの差別、政治的思想が異なる個人への攻撃、容姿に関するいじめ投稿があふれるSNSは、自殺者さえ生み出し問題になっている。ファクトチェックがなくなった投稿空間が、どれほど乱れるのか。

 また、ベゾス氏が個人として所有している米紙ワシントン・ポストでは、女性風刺画ジャーナリストが、自身が描いた「億万長者がトランプ氏になびいている風刺画」が掲載されなかったとして、辞職している。彼女に賛同したジャーナリストも数人、同紙を去った。政治の中心地でベトナム戦争に関するスクープ「ペンタゴン・ペーパーズ」を掲載し、リチャード・ニクソン元大統領の辞任を促したほどの優良紙はガタガタになっている。

 これがガーディアンのショー氏がいう富裕層男性の「へつらい」によって生じている現象だ。「へつらい」がSNS、米メディア、そして市民社会を脅かし、人種やジェンダーの多様性や弱者保護が失われていく社会に突入していくのを米市民は目撃している。

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