伊藤:『ある動画について』は、ストーリーはよくできていましたね。ただ、が死ぬ場面は残酷だから絵にしたくないなあと。

司会:動物が死ぬ、というだけで読まない人はいますからね。

馮年:『ある動画について』は動物が傷つけられるというほかに、もうひとつ、決定的に漫画化・ビジュアル化しにくいポイントがあります。復讐劇なんですが、実は”語り手側”が復讐する側なんです。

 高校生YouTuberが復讐される側として登場するんですが、両者の立ち位置が明確になるのって、物語のかなり後ろのほうなんですよ。冒頭の方は普通に相手の話を聞いているように見える。

 こういう叙述トリックは映像では見せられないんです。実は脅されている側が拘束されている姿は見せられない。なぜなら、そのYouTuberが拘束されていることそのものがどんでん返しだから。

波津:漫画化・映像化が難しいから、いい作品だけど文章のままのほうがいい、ということですね。

馮年:でも、非常に力のある作者なので、この候補作を漫画化するよりも、この人に他の題材を投げかけてどんなものが書けるか見てみたい気はしました。

波津:最近実感しているのが、やっぱり最終的にはキャラなんだな、ということです。どんなに凝ったテーマや設定より、読者にとってはキャラが重要なんです。素晴らしいストーリーよりも、キャラが立っている作品のほうが人の気持ちには残るんですよね。

「いかに魅力的で際立ったキャラを生み出せるか」畑中雄介編集長は話す

畑中:いかに魅力的で際立ったキャラを生み出せるか。それを意外性や納得感のあるストーリー展開に載せて描く。それがほかにライバル(コンテンツ)の多い現在において、評価されやすい、といえるのかもしれません。

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