馮年:なんなら、飛び降りようとしている様子をぐっと引いた絵からはじめてもいい。
波津:そういうベタな表現はしたくないっていう作家さんは結構います。キャラクターの心情が揺れ動く場面なのに、あえて後ろ姿にして顔を描かない人とか。
司会:これだと伝わりにくいですよ、とアドバイスしても聞き入れてもらえないこともあります。
波津:絵のうまい人ほど、他の人のやるようなテクニックは使いたくない、と思いがちなんです。ひとりで描いてると、第三者が読んだ時に伝わるかどうか、わからなくなるんですよね。
雑誌の中の”箸休め”的作品も
司会:大賞・優秀賞のほかには『返礼』『夜の窓』『花の仕事』『たいとる』などの作品に票が集まりました。
波津:『夜の窓』はなんというか、うまいとか下手とかで評価できる絵柄ではなかったですね。ほっこりとしたタッチで文芸作品に添えられているような。ポエムの挿絵っぽい感じ。
後藤:ただ、あまりにも何も起こらない。宇宙(夜空)の壮大さと人の小さな存在感の対比、ということでは、ホラー・サスペンス部門で大賞をとった『肌の折り目』的なものを感じたんですが。何を伝えたかったのかがいまひとつつかめませんでした。
馮年:僕は『たいとる』に注目しました。ごく短い作品で、ワンシチュエーションを描いているんですが「〇〇したい」っていう強い気持ちが鯛の形で現れる、っていうアイデアがとても好きです。
おまけに今回は”自殺願望”というネガティブな「したい」から巨大な鯛を釣り上げる、っていう。不思議なキャラクター設定に、広げようと思えば広げられそうだなっていう期待感はありました。
波津:その一発ギャグっぽさというか、勢いに乗った一発勝負かどうか、ですね。いろんな作品が掲載されているマンガ雑誌のうちの一作、箸休め的な立ち位置ならいいのかもしれない。
伊藤:よくわからない、不思議な世界=ファンタジーではあるんだけども、発想の面白さだったり、人に訴えかけるなにかが明確にならないと、受賞作としての納得感にはつながらないですよね。