波津:その点、大賞に選ばれた『けざやか深夜高速』は自分の世界観や伝えたいことをわかってもらいたい、という熱がこもった作品でした。

伊藤:私も『けざやか深夜高速』が一番好感が持てました。ロードムービーっぽいところもあって。夜なのに水の中に入ると明るいとか、そういうイメージ的なところも良かった。

波津:正直、思いが強すぎて画力・構成力がついていけていないところはあります。主人公はなぜ焦っているのか。バスに乗り遅れたら、目の前に不思議な別のバスが現れた…っていう展開なんだけど、その別のバスがあんまり不思議な感じがしない(笑)

後藤:よくわからないんですよね。せっかく異世界につながってそうな場面なら、もっと不思議感を強く出せばいいのに。

馮年:僕は水の中のシーンはとっても美しくて好きでした。

波津:幻想シーンと現実シーンの切り替えがうまくないんですよ。だから読む側は混乱する。

互いの意見をぶつけながら、選考会は進んでいく

どれだけ読者に親切になれるか

司会:優秀賞の『×(バツ)の法廷』はいかがでしょう?

畑中:最も即戦力になれそうなのはこの作者なんです。絵の力も十分にある。編集部内の一次選考ではトップでした。

 ただ、最後の落としどころがよくわからない。芥川龍之介の引用だとか、あとがきだとかいろいろと後付けされていて。それが何だか言い訳に見えてしまう。

波津:エンディングのあとに補足資料がついていても、読者は読まないですよね。それがないと成立しないっていうのは、そもそも読者に不親切ですし。

畑中:ユダヤをテーマにした同人誌に掲載したものを投稿してきたらしいんですが、その同人誌のテーマには合っていても、純粋にファンタジー作品として賞に応募するのであれば、これでは読者にストレスがかかるかなあ。もうちょっと結末をすっきりと、明るい方を向けるようにもできたはず。そういう読後感は大切にしてほしいと思いますね。

波津:出だしからちょっとわかりにくいんですよ。飛び降り自殺しようとしているところから入るから、場面が屋上であることは必要不可欠なんだけど、それがあの絵では伝わりにくい。セリフを読んで初めて「ああ、ここは屋上なのか」「飛び降りるつもりなんだ」ってことがわかる。

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飛び降りようとしている様子