自分の子に対して虐待や育児放棄をする親の多くは、本人もそのような環境下で育っている。20年ほど前から指摘されてきたこの事実を、石井光太の『「鬼畜」の家』はあらためて突きつける。
厚木市幼児餓死白骨化事件、下田市嬰児連続殺害事件、足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件……世間の耳目を集めてさほど時間がたっていない3件の犯人たちは、法廷や、面会に訪れた石井の前で異口同音にこう語った。
私なりに愛していたけど、殺してしまいました。
マスコミで報道される事件の概要だけを追えば、犯人となった親たちは文字どおり「鬼畜」に違いない。しかし、そんな彼らが彼らなりに本気で子どもを愛していたとしたら、むごたらしい事件の真の原因は何なのか? 疑問を抱いた石井は裁判の傍聴や面会の間に犯人たちの親族や知人に取材を重ね、3代までの家族関係を明らかにしていく。
この本のサブタイトルは〈わが子を殺す親たち〉だが、それぞれのルポを読むと、わが子を殺した親たちもまた薄氷の上をどうにか渡ってきた子どもたちだったのだと感じる。彼らは死なずに生き延び、いわば親子間の負の連鎖の果てに、自身が経験した「歪んだ愛し方」でわが子を死なせてしまったのかもしれない。
人は、子どもを産むだけで親になれるわけではない。手本となる親の愛を知らない者ならなおさらだ。だから、石井がエピローグで紹介した特別養子縁組を支援するNPO法人の取り組みは、ほのかな光明だ。子どもが笑って育つために負の連鎖とどう向きあうか──この国の大切な課題の一つである。
過去に学ぶことは多い。
※週刊朝日 2016年9月16日号