強制が「憲法違反」になる理由
どういうことか説明しよう。
国民に何らかの義務を課す場合には、法律によることが必要だ。もし「マイナンバーカードを持て。持たないなら健康保険を使えなくするぞ」と不利益を与えることで無理やり従わせたければ、それを法律に書かなければならないのだ。
ところが、マイナンバーカードを持つことは法律上義務付けられていない。前述のとおり、本人が申請した場合だけ交付されることになっていて、政府もずっと取得は自由だと言ってきた。
その理由は、取得の義務付けに反対する世論が強くて、義務付ける法律を通すことが困難だったからだ。それは、民意に基づく判断だと言っても良いだろう。
しかし、政府は、健康保険証への一本化という裏技で、事実上義務付けと同じことにしようとした。法律によらずに国民に新たな義務を課すという憲法違反である。
これは政治家の横暴であるが、官僚の間でも当然議論が行われたはずだ。政治家の強硬論に対して、厚生労働省の官僚などがこれに異を唱えたか、あるいは、「憲法の番人」と言われる内閣法制局がストップをかけた可能性もある。
政府は、最終的に、マイナ保険証の義務付けを断念し、申請がなくてもマイナ保険証を持っていない人に各自治体や健康保険組合などが資格確認書を交付することで、マイナンバーカードの取得及びマイナ保険証の登録はあくまでも自由だという原則を守ったが、こうした議論は表に出ることはなかった。
私も、このような憲法違反の問題について、迂闊にも事前には認識していなかった。
ちなみに、厚生労働省が各自治体などに出している通知に添付されている利用登録解除申請書の様式には、解除の理由を記入する欄が設けられている。しかし、実際に各自治体や健康保険組合などが使用している申請書の中には、この理由記入欄がないものもある。
また、記入の仕方についても自由に記入するものと理由の例示の中から選ぶ形式のものなど、違いがある。
どうしてこんなことが起きるのだろうか。
マイナ保険証に反発する人の中には、一度マイナ保険証の登録を行ったにもかかわらず、その登録を解除したいという人がいる。登録は義務ではないので、政府は登録解除を拒むことはできない。
政府はしぶしぶ、登録解除の手続きを定め、各自治体や健康保険組合などに連絡をしたが、その際、解除の理由を書かせることを思いついた。それにより、解除のハードルを上げようと考えた可能性が高い。ただし、理由を知ることによって、今後の利用拡大のための施策に反映しようと考えただけだという言い訳も成立するだろう。