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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子さんの連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「病」について。

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 国会中継をテレビで見ていたら、突然岸田首相が言った。

「花粉症はいまや社会問題になっている。専門家を集めて対策を考えたい」

 言葉は正確ではないが、そのような意味だった。「花粉症は国民病と言われている」という議員の問題提起に答えたものだった。

 私も花粉症で毎年この時期は憂うつである。目は痒(かゆ)いし、鼻水が止まらない。マスクと眼鏡は必須だ。昨年から薬を飲みはじめて少し軽減した。

 一度病院でアレルギーの検査をしたらスギ花粉はそれほどではなく、一番反応が強かったのが、ブタクサとハウスダストだった。春も秋も気が抜けない。だからといって、花粉症が「病気」になって欲しくはない。

 スギ花粉についていえば、戦中・戦後の木材不足を補うためスギが多く植えられたのが原因だという。そうした原因を除去せずに「花粉症」という名で括(くく)って欲しくはない。対症療法で終わってしまっては、病気が増えるばかりだ。

「気象病」という病気があるという。気圧に気分や体調が左右され、雨が続いたりすると、頭痛がしたり具合が悪くなる。私も気象に左右されやすく、お天気女なので、雨や湿気が多いと気分がすぐれない。

 だからといって、気象病という病に逃げ込まないようにしている。

 自分への言い訳になってしまうからだ。「気象病だから」「花粉症だから」と病を理由にそこへ逃げ込もうとする。

 自分に甘えて、何もせずに一日が過ぎてしまい、ますます憂うつになる。

 私の場合、多少辛くとも机に向かって仕事をしていると、そのうち気分が変わって晴れてくる。

 よほどの「病」でなければ、日常の暮らしを続ける。無理はよくないが、多少のストレスはあった方がいい。大事なのはそれに負けずに自分で気分を上げることだ。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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