時にメディアで華々しく取り上げられるも、内情は見えづらい科学の世界。生命科学の研究者が近年の変化を総括した。
 かつて競争とは無縁だった学問の世界だが、科学技術の振興が国家政策となり、近年とみに「商業主義化」していると著者は警鐘を鳴らす。顕著な変化は、大学の運営費が年々減り、代わりに競争的資金が増えていることだ。そのため研究者はとかく具体的な成果を上げるべく追い立てられることになる。その不幸な帰結の一つは、研究不正だ。中でも無視できないのが「不適切なオーサーシップ」問題だろう。論文の「著者」は本来、研究発案から成果公刊まで一連の過程に関わる存在と国際的基準で定められている。しかし掲載確率を上げることなどを目的に、研究室のボスや共同研究者を「空著者」とする慣習が「見かけ上の多作研究者を生んでいる」と著者は指摘する。その一部を税金で賄う科学は、れっきとした社会的取り組みだ。「権威ある論文」を批判的に読み解く視点を養うためにも、研究者か否かを問わず手に取って欲しい。

週刊朝日 2016年4月22日号