耳目を集める事件が起きると、インターネットの普及で事件の断片が物凄い速度で伝わるようになった一方、風化するのも早くなった。本書では11の凶悪殺人事件を扱っている。元週刊誌記者の著者は事件後も加害者や関係者を追い続け、犯人の実像や親族の苦悩に迫る。
 強烈な印象を残すのは、犯人の宅間守の父親に焦点をあてた大阪教育大附属池田小事件。報道陣の前では「同じことを何度も言わせんな」などと虚勢を張りながらも、心を許した著者には「あいつは異常やった」と苦悩を漏らす。事件を防げなかった悔恨と、殺人犯の親として生きる覚悟が透けて見える。
 戦後最大の冤罪事件とも言われる帝銀事件では支援活動に一生をささげた男の生涯を描く。獄死した平沢貞通の汚名を晴らすために養子になり、職にも就かず、奔走するが、再審請求が進まず精神を病む。
 当事者にとって事件に終わりはない。彼らの体温を感じることで凶悪事件が遠いどこかで起きているのではなく、我々と同じ地平の出来事であることを改めて認識させられる。

週刊朝日 2016年1月29日号

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