「スペインのQueenと名乗る方より、そちらのミチコさんという方にお電話です」
多賀さんは、外務省から侍従職に出向して1年。半信半疑で通話を受けると、エネルギッシュな英語が受話器から響いた。
「Hello, I am Queen of Spain」
国王フアン・カルロス1世の妻、ソフィア王妃であった。同年1月17日に発生した阪神・淡路大震災のニュースを知り、「美智子皇后は大丈夫か」と心配して電話をかけてきたのだという。
多賀さんが振り返る。
「まさか王妃から直接電話がかかってくるとは思いもしませんでした。万が一にでも『Are you sure?』などと口にすることがなくて、本当によかったです」
親善の相手であると同時に、長年の友人でもあるのが王室メンバーだ。
「ベルギー王室との交流が打ち解けた友人との交流だとすれば、英国王室と皇室の関係は、適度な緊張感のある関係といった印象でした」
多賀さんは侍従職を務めたあと、英国の在英国日本大使館公使としてロンドンに滞在していた。98年に両陛下が英国を訪問した際は、エリザベス女王を招いての答礼晩さん会の準備を担当した。
日本であれば、迎賓館が使われる。しかし、このときは、会場選びも大変だった。
「女王は、ありきたりのレストランの食事は、お好きでない――。王室の侍従長から情報を集めると、なんとか工夫できないものかと頭をめぐらせました。結局、芸術やデザインを専門に扱う優雅なヴィクトリア・アンド・アルバート博物館を会場にすることに決まりました」
食事は、女王のお気に入りのレストランからケータリングを頼んだ。
英国紙を読み、情報を得る天皇陛下
このときの訪英は、第二次世界大戦で捕虜になった英国の元兵士らを中心とした反日感情が高まっていた時期。緊張の抜けない外国訪問で、英国の国民と同時に女王に対しても、繊細な国際親善が求められる場でもあった。