富士山の登山者の安全確保や環境保全などのため、山梨県側からの登山の事前予約システムの運用が今月20日から始まった。山小屋に宿泊せずに夜通し登る「弾丸登山」などが問題になっている富士山。「現場」はどんな状況になっていたのか、記事で振り返る(この記事は「AERA dot.」で2023年7月2日に掲載した記事の再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
* * *
もうすぐ富士登山のシーズンが始まる。山梨県側は7月1日、静岡県側は同月10日に山開きが行われる。「コロナ明け」の今年は、山小屋に予約申し込みが殺到し、すでにシーズン中の山小屋はほぼ満室になっている。そこで懸念されるのが、山小屋に泊まらず、徹夜で山頂を目指す「弾丸登山」による遭難だ。
「これほど富士山の山小屋が混むようなことは今までなかったね」
7合目で江戸時代創業の山小屋「日の出館」を営む中村修さんは語る。中村さんは16軒の山小屋などでつくる富士山吉田口旅館組合の組合長でもある。
「富士山の登山者は山頂でご来光を見たい人が多いから、山頂に近い山小屋からいっぱいになる。ところが今年は、5月に受け付けを開始すると、うちの山小屋にも予約の電話がかかってきた。ということは、8合目以上の山小屋はもう満杯ってことですよ。そんな状況は今まであり得なかった。異常ですよ。『こりゃあ、弾丸登山者が出るぞ』と、組合員たちは心配した」
単なる宿泊施設ではない
山小屋に宿泊せずに夜通し登り続ける弾丸登山は、日中に登る通常の登山よりも疲労や病気、転倒などによる遭難のリスクが高い。
中村組合長は5月16日に開かれた富士山吉田口環境保全推進協議会の総会で「弾丸登山は危ないので、行政には何らかの対策をお願いしたい」と、富士吉田市や山梨県などに要望書を手渡した。
さらに6月12日、同市の堀内茂市長らは県庁を訪れ、長田公副知事に、夜間の登山道の通行規制を求める要望書を提出した。
弾丸登山の懸念はこれまでたびたびネットニュースなどでも報じられてきた。それに対して「泊まらずに登られるから山小屋は困るのだろう」という、心ないコメントも目にした。しかし、それは違う。
「弾丸登山もそうですけど、『登山は自己責任』って言われるでしょう。でも実際は、遭難が発生したら、山小屋の従業員が助けに行かなければならない。だから、弾丸登山者が出ないように、要望書を手渡したわけです」と、中村組合長は説明する。