たった1行の言葉で商品が爆発的に売れだす。〈もし、あなたが、そんな1行を書くことができたら?/人生が変わると思いませんか?〉
 思う思う、人生変えたい!
 商品広告だけではありませんよ。〈プレゼンは印象に残るフレーズがあるかどうかが採用の決め手になります〉し、〈リーダーシップも同様です〉。〈短く的確な1行で指導できてこそ、人はついてきます〉
 そんな巧みな言葉で釣りながら、人の心をつかむ1行の極意を教えてくれるのが川上徹也『1行バカ売れ』だ。常套句を避ける、言葉の組み合わせを考える、受け手に「分と関係がある」と思ってもらうなどの理屈もだけど、眼目はやはり「1行」の実例だろう。
〈ハインツのケチャップは、/おいしさが濃いからビンからなかなか出てこない〉は欠点を逆手にとった60年代アメリカの広告の成功例。〈ハンカチ以来パッとしないわね、早稲田さん。/ビリギャルって言葉がお似合いよ、慶應さん〉は2015年の東京六大学野球早慶戦のポスター。〈包まぬ豚は、ただの豚〉はサムギョプサル専門店のキャッチコピーだ。〈吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機〉〈キスより、濃厚〉〈芸能人は歯が命〉といった広告が人を惹きつける秘密も解明される。
 特に感嘆すべきはデメリットを強調した1行だ。〈只今販売しておりますグレープフルーツは、南アフリカ産で酸味が強い品種です。/フロリダ産の美味しいグレープフルーツは12月に入荷予定です〉などのPOPで客の信用を得ているスーパー。〈入りづらい? 大丈夫だよ、たいした店じゃないから〉の垂れ幕で客を増やした西洋風居酒屋。「おもしろければ勝ち」みたいなコピーライトの全盛期とは違い、現代は正直パワーの時代なのかも。
 さる地方都市の人気回転すし店のメニューには「桜鯛のかぶと揚げ」の脇に〈言っておきますが、骨だらけです〉。シビレる強さだ。口の中をケガしてもいいと思わせる。

週刊朝日 2015年11月20日号

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