「書くこと」はやめなかった
そんな2人の出会いは、瀬尾さんが23歳、寂聴さんが88歳のときだった。以来、10年以上、同じ時間を過ごした。瀬尾さんには、「作家」という仕事に全身全霊をかける寂聴さんの姿が今でも目に焼き付いているという。
「瀬戸内はよく『私、毎日お経をあげるわけでもないし、お堂に行くわけでもない』って笑っていました。瀬戸内も言うように、私が見るのはほとんどが机に向かって文章を書いたり、本を読んだりしている姿でしたね」
寂聴さんは99年の人生で、400冊以上の著作を残した。亡くなる直前まで、文芸誌や新聞、週刊誌に5本もの連載を抱えていた。
「よく『しんどい』って言っていましたけど、書くことをやめることはありませんでした」
なぜそこまでして書くことにこだわったのだろうか。瀬尾さんがたどり着いた答えはシンプルだ。
書くことが、本当に好きだったから――これに尽きるという。
「病気をして、『歩けなくなってしまうかな』とか『寝たきりになってしまうかな』とか、気分が落ち込んでウツっぽくなりそうなときも、無理やり本を読んでいました。そうすると、他の作家がいい小説を書いていると気づく、じゃあそれに負けまいと頑張る。そういうふうに、病気をしていようがなんだろうが、毎回、『書きたい』というところに行き着くんです。もちろんものすごい努力をしていますけど、本当に書くことが好きで、純粋にそれを貫いたということだと思います。なので、書いたものを褒めてもらえると、もっと書きたいととてもよろこんでいました」