ヒコロヒーさんが短編恋愛小説集『黙って喋って』を上梓した。お笑いのネタを書くこととは別の視点から生まれる物語とは。AERA 2024年2月19日号より。
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――障害者を恋人に持つ主人公と友人のガールズトークを描いた一編(「普通に生きてきて優と出会ったんだもん」)は、リアリティーを感じると共に、恋する清々しさを感じました。
ヒコロヒー:ろう者と接することがあったとき、面白いことを言ってきたり、こけたり、そんなときは「なにしとんねん」と普段は突っ込むのに、健常者同士だったら「なんでそんなこと言うねん」って言えるのに、障害に対して気を使っている自分を「何か嫌だな、良くないな」と感じたんです。身体的な障害があっても、その人の人間性が好きで、一緒にいて、付き合っている。だったら逆に嫌なことがあったら「それは嫌だ」「やめてほしい」と言ってもいいよなと。そんな発想から、この話を書きました。
――これまでの障害者が登場する小説とはまったく違うと感じました。
ヒコロヒー:障害者と出会って恋している人は、身近にいなかったとしても必ず世の中にいるはずですよね。その人たちはどうしているんだろうと。普通の恋人同士だったら「お前のその言い方傷つくねん」「お前の自己中なところ、キモいねん」というけんかがあるはず。そこから話を膨らませて、まったく障害に気を使わない、ただ好きな男と付き合っている女の子同士の会話を書いてみたんです。自分たちは普通の恋人同士だと思っていて、そこに何の壁もない。けんかしたり、ありえへんことをいったり。「神経疑うわ」と平気で言い合う女の子の話を書きたかった。
――書籍化されたことで、いろいろな世代の方がこの本を読みます。
ヒコロヒー:本との出合いは「運」だと思うんです。読む人のコンディションやタイミング、複合的な理由で、その本の価値、存在が変わってくる。「めちゃくちゃ長編読みたい」「死ぬほどおもろい本が読みたい」という人は、私の本を最初から選ばない、とは思います。私の本はサクッと読める。そして気持ちを「凪(なぎ)」にできるんではと思っています。本を読むことで心が動いたり、衝撃をくらうのが邪魔くさいときに、読んでもらえたら。
あまり目立たずに
――文芸書好きの読者にも読まれると思いますが、不安と期待どちらが大きいでしょうか。
ヒコロヒー:不安のほうが大きいですね。もちろん、本はすごく売れてほしいと思っているのですが、あまり目立たず、バレずに。できるだけ多くの人に、普段芸人としての私に興味を持っていない方にも、読んでもらえたら嬉しいです。