ダイキン工業 空調生産本部 堺製造部 教育技能伝承G 高田興司(たかだ・こうじ):1973年生まれ、大阪府出身。92年、淀川製作所入社。チラーユニットの製造担当。2006年、堺製作所異動。08年、第3回技能オリンピックグローバル大会1位。09年、マイスター認定(撮影/MIKIKO)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年2月5日号にはダイキン工業 空調生産本部 堺製造部 教育技能伝承G 高田興司さんが登場した。

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 10月に創業100年を迎えるダイキン工業。主力のエアコン製造で重要とされる技術の一つが「ろう付け」だ。エアコン内部にある冷媒用の配管同士を接合する工法だが、接合部分にほんの少しでも隙間があればガスが漏れ出すため、高度な技が求められる。

 配管は銅やアルミなどの金属製で、形状や口径は多岐にわたる。バーナーで加熱した配管同士の隙間に、配管よりも融点が低い合金を配管の熱で溶かし、毛細管現象によって浸透拡散させることで、配管を溶かさずに接合する。

 特に難しいのは、合金を溶かし込むタイミングの見極めだ。「配管が熱によって変色するのですが、その一瞬の変化を見極めて浸透させます」。配管の種類やサイズによるが、口径約0.7センチの銅管同士なら4、5秒で接合させなければならない。

 合金を溶かしすぎると配管の内側に入り込み、冷媒ガスの流れを阻害する。配管の加熱が足りないと合金が十分に浸透せずに隙間ができ、冷媒ガスが漏れ出す。瞬時に判断を下し、正確に作業を進めることが何より重要になる。

 入社以来、ろう付けの繊細さに魅了され、一筋に技を磨いてきた。2009年には卓越した熟練技能者におくられる社内の称号「マイスター」に認定され、若い技能者たちに技術を継承している。

 指導で、最も大切にしているのは、ろう付けの原理原則をしっかり理解してもらうことだ。「早く一人前になりたいからといって基本をいい加減にすると、途中でいろいろな欠陥が出てくる。基本を押さえた上で繰り返し訓練することが結局上達の近道です」

 出荷する製品でミスは許されないが、訓練では失敗の経験をあえて積んでもらう。「どうしたら失敗するのか、身をもって実感していれば、正確に作業することの重要性を理解できます」

 駆け出しのころ、担当した製品の最終検査でガス漏れのミスを指摘される苦い経験をした。技能の過信や確認不足が招く失敗も次世代に伝え、技能とともに品質の向上も目指す。

 グローバル競争が激化する中、国籍を超えた技能伝承者の育成も課題だ。「若い技術者の成長過程を見られることに喜びを感じる一方で、自身もまだまだ学ぶことが多いと感じる毎日です」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2024年2月5日号