6月6日は、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」です。
歳時記に詳しい方はよくご存知と思いますが、一般的には地味な存在の歳時記です。でも、実はとても私たちの生活に深い関わりがあり、『田園絵巻(でんえんえまき)』を継承しているお祭りも…。まつわる季語とともに、ご紹介します。

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「芒種」は田植えの祭事を今に伝える一大イベント!

歳時記によると、「芒種(ぼうしゅ)」とは、稲など禾(のぎ)のある穀物(こくもつ)の種を蒔く時期*1を言います。天文的には、太陽黄経が春分の0°から75°になり芒種を迎えます。
理屈も大切ですが、私たちの主食はお米ですから、この歳時記は祭事としてもとても大切な日です。
遥か昔…まだ、科学的なことが証明されていなかった頃は、洋の東西と問わず「祈り」によってさまざまなことを願い、祝い、お祓い(はらい)してきました。「芒種」は、大切に育んだ苗を田に植えながら、田の神様に祈る祭事です。…雨に恵まれ、お日様に恵まれ、無事に稲穂が実りますように、と。
今では人手などの関係から5月上旬に行う地域が増えましたが、6月の芒種に合わせて、盛大なお祭りをしている地域があります。中でも、『壬生(みぶ)の花田植え』*2 は、地元で代々継承されている祭礼として代表的な例ではないでしょうか。「田の神」を迎えて送る…街を練り歩く「飾り牛」、苗を田んぼに植える「早乙女(さおとめ)」と祭りを彩る「お囃子(はやし)」。
*1 俳句歳時記・夏より抜粋引用
*2 北広島町観光情報サイトより抜粋して引用

田植にまつわる季語いろいろ、そして…

田植えにまつわる季語には、田植歌・田植傘・田植時・田掻牛・田掻馬、早苗・早苗籠・早苗束・早苗舟・早苗饗(さなえぶり)・早乙女…など、たくさんの季語が残されています。
前でも触れましたが、「早乙女」は、田植えを行う女性のことを言います。今ではこの苗字を持つ方もいらっしゃいますが、ご先祖が「早乙女」の役割をなさっていたのかもしれませんね。お名前に早苗とつく方には、実り多き人生を…という願いが込められているのでしょう。昔から今に伝わる想いが、言葉に残されていることを感じませんか?
残すと言えば…「こども田楽」も欠かせません。壬生の花田植が『田園絵巻』を彩り続けるための、継承・伝承が確実に行われていることがわかります。では、「田楽(でんがく)」とは何でしょうか…。
壬生の花田植ではこども達が「田楽舞(でんがくまい)」を舞う「こども田楽」も披露されます。田楽舞は、田の神に五穀豊穣を願う舞ですので、古くから存在しており、地域ごとにさまざまな形が残っています。そして、その原型は「神楽(かぐら)」にはじまり、神楽舞から田楽舞へ、田楽舞も現在残る様々な芸能へと発展しました。

「田楽」は神事であり舞踊であり…

残したいことを後世に伝えることの大切さも感じることができる行事…「田植え」。
「芒種」という一見地味な歳時記に、こんなにたくさんの歴史と文化がつまっているとは…びっくりですね。
現在、伝承されている田植のお祭りは壬生以外にも、秋保の田植踊り(宮城)、板橋の田遊び(東京)、三河の田楽(愛知)、住吉の御田植(大阪)…以上、重要無形民俗文化財…や、東京の三社祭などが季節の風物詩として残っています。
私たちがお祭り以外で「芒種」を祝うことは、日々の食事を丁寧に美味しくいただくことではないでしょうか。食事を用意してくれた人に、田畑を耕し実らせてくれた人々に…「いただきます」と「ごちそうさま」の感謝の心を忘れずにいたいですね。「芒種」はそんな節目です。今年も、お日様と雨に恵まれて五穀豊穣でありますように…。
《参考文献・サイト》
俳句歳時記・夏 角川学芸出版
国立天文台 暦wiki
文化庁オンライン