追悼イベントには、派手に着飾ったり、生真面目に黒い衣装を纏ったり、男の姿だったりと、各々好き勝手な格好をした新旧の女装たちが集まりました。オナン氏ほどのシンボリックなクイーンが亡くなるのは、東京では初めての出来事だったため、どのような格好で弔い送るのがよいのか、前例や正解がない感じもまた女装らしい尊い光景でした。
これだけ女装が集まれば、結局は酔っぱらって騒ぐのが関の山だろうと思っていましたが、見事にそのようになったのもとても良かった。
会場で、オナペッツの宝ダイヤさんに初めてお会いしました。オナペッツさんは、90年代中期にテレビやCMで大活躍した2人組で、言うならばメジャーシーンで名を馳せた日本初の「ドラァグクイーン」です。
彼女の喪服のスタイリングが、実にお洒落で凜としていて、尚且つちゃんとふざけていたのが印象的でした。歳を重ねた先輩たちの粋な姿というのは、単純に自分の若さや未熟さを自覚させてくれる、これまた尊いものです。
下手すれば本名も出身地も知らないような、虚像とかりそめの世界で私たち女装は生きています。故に、この世界の仲間の死というのは、敢えて今まで詮索し合わずにきた「正体」や「真実」が必要以上に詳らかになってしまう野暮ったさを孕んでもいます。
きっとこの先も、こうした場面は嫌でもやって来るでしょう。誰にでも一度だけ訪れる唯一の平等な未来である「死」に直面した時、私たちは私たちなりのスタイルをどこまで貫けるか。これからのクイーンや女装たちが生きていく日々において、ささやかな指針になっていくのかもしれません。
「オナン・スペルマーメイド」が遺した色彩、作品、舞台、ショーを、よろしかったらネットで検索するなりして、ひとりでも多くの人に知って頂けたら幸いです。
そして彼女を失った今、然るべき「王道」が今後も続いていくために、私は私の「亜流」をしっかりと磨き貫いていこうと、覚悟を新たにしています。とりあえずはファンデーションを丁寧に塗布するところから改めていこうかと。
「薄い厚化粧は土台作りが命」。スーパー厚化粧のオナンさんに教えてもらったことです。