ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。16回目のテーマは、「『第一世代』から受け継いだこと」について。
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日本のドラァグクイーン・カルチャーを黎明期より牽引してきた、いわゆる「第一世代」のひとりであるオナン・スペルマーメイド氏が今月初めに亡くなり、その追悼イベントが新宿2丁目で賑々しく催されました。
「ドラァグクイーン」は、1980年代頃からニューヨークのゲイクラブ(ディスコ)を中心に世界的なムーブメントとなり、やがて日本のゲイシーンにおいても定着していった「女装文化」です。
国内における歴史としては、まだ40年にも満たないカルチャーではありますが、近頃はお茶の間でも「ドラァグクイーン」という言葉を見聞きするようになりました。
古くから多種多様な女装文化が存在してきた日本ですが、戦後芸能史的には、美輪明宏さんやカルーセル麻紀さん、さらにはピーターさんといった、「大衆性」「メジャー畑」を切り拓いた先達を「女装の元祖」とするのが一般的です。
一方で、私のような「ドラァグクイーン文化圏」からデビューした人間にとっては、90年代以降に確立された「クイーン業界内の世代意識」というのもまた、絶対的な軸であり、とても大事な心の拠り所だったりもするのです。
今なお現役の「クイーン第一世代」は、全国でも数えるほどしかいない中、オナン・スペルマーメイド氏は、最後までシーンの第一線で活躍する正真正銘のドラァグクイーンでした。彼女が築き上げた「王道」が、若い世代のクイーンたちに与えた影響は計り知れません。と同時に、彼女のような普遍的な王道があり続けてくれるからこそ、私みたいな「亜流」も存在し得るのだと、こうして彼女の不在に直面し、改めて実感させられている次第です。