AERA 2023年9月25日号より

「ひきこもり歴が長い方だと、外出して電車に乗ること自体が大変で、ICカードの『ICOCA』の使い方がわからないという方もいます。収入がない方も多く、『外出するため親に電車賃を借りるのがしんどい』という声もありました。移動にかかる身体的、精神的、経済的な負担なく仲間や支援者と繋がれる手段として始めたのが最初です」(同市福祉局相談支援課係長・加島英義さん)

 リアルな会場とメタバース上と、月に1回ずつ当事者会を実施するのが特徴で、そのうち、「当事者が別の当事者を支援する」という動きが生まれてきた。

 昨年から交流会に参加しているのが、同市在住の男性(32)だ。大学院を中退後、民間企業に就職。建設の現場管理を任されたが、多忙な上、人間関係に悩み、うつと診断された。6年前に休職し、そのまま退職した。

 2年前、男性は母親(62)に連れられて、同市サポステの支援につながった。ハローワークでコミュニケーショントレーニングを受けた後、メタバースでの当事者交流会に参加し始めた。男性は緊張が取れた頃には、両方の会に参加するようになった。

「他のメンバーが、徐々に仕事に復帰する様子などが聞けて、刺激を受けた」と男性は語る。

 そのうち、自身が趣味で作っているクラフトが話題になった。革製のカバン、ペンケース、ブックカバー。頼まれれば、あらゆる作品をひと針ひと針糸で縫い、手仕事で作る。そのクオリティーが高く、「販売したら?」と仲間に勧められた。地域の手仕事市場に出品した際、仲間が、「手伝いたい」と声をかけてきた。一部の人は、展示会場の下見までついてきた。作品作りのワークショップを開催することになった際は、本番前に「練習台」として、男性の指導を受けてくれた仲間もいた。

「バーチャルで知り合った人ともだんだんリアルな交流が生まれて。そのうち作品が売れるようになり、ワークショップで人前に立つようにもなっていました。これまで15万円ぐらい売り上げがありました。まだ、生活費を稼ぐほどではないけれど、自分にとっては理解のある仲間ができたことが大きいですね」

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