メタバースでの当事者交流会への参加を機に、クラフトづくりに精を出す神戸市の男性。質の高い手仕事が「仲間」からほめられ、自信を取り戻した(撮影/古川雅子)
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 ひきこもり状態にある人を、社会や就労につなぐことは急務だ。メタバースを使った支援が、全国各地に広がりを見せ、そして成果をあげている。AERA 2023年9月25日号より。

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 昨年、内閣府が調査したひきこもり者の人数が「146万人」と試算された。さらにその調査では、ひきこもりのきっかけとして、「退職したこと」がトップに上がった。「就労」を切り口とするひきこもり者への支援は、喫緊の課題なのだ。

 広島県は、22年春に精神障害や身体障害を抱えるひきこもりの人たちを対象とする企業説明会を開催。福井県越前市では、今年2月に「メタバースこころの保健室」を開設した。

 神奈川県は、ひきこもり当事者などに交流や就労のきっかけづくりをするメタバースのイベントを9月9、10日に開催。開始から1時間後に入場したところ、既に「会場」は大勢の参加者(アバター)でガヤガヤしていた。2日間を通して入場者ののべ人数は、675人だった。

 神奈川県が新規にメタバースを活用する支援に乗り出したのは、今年からだ。従来は若年層中心だったひきこもり当事者が、氷河期世代にも広がり、高年齢化が課題となっていた。そこでまず、子どもと若者を対象としていたLINE相談事業から分離して、22年度から「ひきこもり当事者専用」の窓口を開設。さらなるテコ入れ策として、メタバースを活用した支援策が浮上した。

当事者同士が支援

 神奈川県福祉子どもみらい局青少年課の隅山明広さんは、時代の変遷も影響したという。

「ひきこもり当事者は増えているが、長らく使われてきた掲示板のアクセス数が、ピークの13万件強(19年度)から3万件強(22年度)に落ち込んでいた。新しいツールとして、メタバース支援もメニューに加えたんです」

 ユニークなのは、神戸市の取り組み。支援者も想像していなかった「成果」が生まれた。同市がメタバース上の交流会を初めて開催したのは、22年10月。

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