![](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/0/9/840mw/img_097c93116dd1ff9bb69f36c9ae631d4b197125.jpg)
子どもが少し背伸びして学びたいと思った時に、立ちはだかるのが漢字の壁だ。ルビでその壁をなくせば、もっと多くの人が可能性を広げられるかもしれない。AERA 2023年9月18日号より。
* * *
この夏、「ルビ財団」という一風変わった団体が活動を始めた。出版物やウェブサイト、街の看板や標識の漢字にもっとふりがな=ルビを振って「ルビフル(Rubyful)な社会」を目指すのだという。
設立者はオンライン証券大手、マネックスグループ会長の松本大さん(59)。代表理事を務めるのは人材採用支援の「スローガン」の創業者で、現在はスタートアップの支援をしている伊藤豊さん(45)。共に開成高校から東大に進んだ起業家だ。
中学受験問題で興味
「娘2人を育てながら、ルビがあればなあと思うことが多かったんです」
そう語るのは伊藤さんだ。子どもには積極的に本を買い与えてきたが、漢字にルビが振られていないと内容が良くても渡すのを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。特に長女は小学校高学年になり、少し背伸びした本に手を伸ばし始めたが、漢字のハードルは高かった。
「中学受験の過去問や模試を見ると、新書や小説を題材にした問題が多いですよね。そこで興味をひかれて1冊丸ごと読んでみようと思ったようですが、漢字がネックになって途中で諦めてしまうことが何度もありました。せっかく自分から興味を持ったのにもったいないなあ、と。周りの親同士で話すとみなさん同じような経験があるようです」
一方、総ルビの本や新聞を読みながら、好奇心の扉を開いていった原体験を持つのが松本さんだ。戦前の出版物では当たり前だった総ルビは、戦後、徐々に廃れていったが、編集者だった父親は子どもの手が届く高さの書棚に総ルビの本をそろえてくれていた。
「園芸の本を開くと、いちごを育てるには水は1時間に何cc必要で、肥料はリンと窒素とカルシウムで、こんな装置がいいとか書いてあって、科学や工作に興味が湧きました。歴史や文化などリベラルアーツも、世界美術全集をめくりながら、知らず知らずに学んでいた。アルファベットを使う国では、子どもは大人向けの本であっても、とりあえず読むことはできるので、背伸びして大人の世界を垣間見ることができます。でも、日本では漢字がある程度読めないと、それができない。いつかルビを復活させて、その壁をなくしたいとずっと思っていました」