あらゆる人にメリット

 起業家の先輩・後輩として親交のあった2人だが、今年に入って伊藤さんが「スローガンの経営を後進に譲り、非営利で社会貢献事業をやりたい」と話した際に、ルビの話題で意気投合。一気に財団設立が決まった。

 ところで、ルビが学びを後押しするのは、子どもだけではないらしい。伊藤さんが見せてくれたのは、自身が読書で読めなかった漢字のリストだ。「乃至(ないし)」「些(いささ)か」「喧(かまびす)しく」……。ここ数年、ビジネス書から離れて小説や哲学、倫理学などの本を読むようになったが、そこで読めない漢字に次々遭遇した。「専門分野以外だと、大人でも意外に読めない漢字が多いんです。大人が学び直しをしたり、新しい領域を学ぶ際にもルビは役に立つはずです」(伊藤さん)

 松本さんは、こう付け加える。

「最近、外国にルーツを持つ子どもたちが増えていますが、親が日本語、特に漢字が苦手だと子どもの日本語能力にも影響し、それが進学や就職における不利、社会的排除にまでつながってしまうケースもあります。障害で漢字を読むのに苦労している人もいます。漢字が読めるか読めないかはさまざまな人の人生の選択肢に関わる人権やインクルージョンの問題でもあるんです」

 ルビ財団が目指すのは、より多くの人が「よめる」「わかる」ことで自らの可能性を広げられる社会だ。今後は出版業界のほか、自治体やディベロッパーなどにも働きかけて、「ルビシティ」や「ルビタウン」などルビを振る街を増やしたいと意気込む。(フリーランス記者・石臥薫子)

AERA 2023年9月18日号