上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……ビジネスにおいて「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことは必須のスキルです。そこで、多くのビジネスパーソンは「理屈で説得しよう」と努力しますが、これが間違いのもと。なぜなら、人は「理屈」では動かないからです。人を動かしているのは99.9999%「感情」。だから、相手の「理性」に訴えることよりも、相手の「潜在意識」に働きかけることによって、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」という「感情」を持ってもらうことが大切。その「感情」さえもってもらえれば、自然と相手はこちらの意図を汲んで動いてくれます。この「潜在意識に働きかけて、相手を動かす力」を「影響力」というのです。
元プルデンシャル生命保険の営業マンだった金沢景敏さんは、膨大な対人コミュニケーションのなかで「影響力」の重要性に気づき、それを磨きあげることで「記録的な成績」を収めることに成功。本連載では、金沢さんの新刊『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)から抜粋しながら、ゼロから「影響力」を生み出し、それを最大化する秘策をお伝えしてまいります。
「影響力の磁場」と無縁に生きることはできない
この世は「影響力」の磁場である――。
僕は、そう考えています。小難しい表現ですが、言いたいことはシンプルです。磁石の周りに鉄粉を引きつける「磁場」が存在しているように、僕たち人間がつくるあらゆる集団や社会には、「影響力」の磁場が存在していると思うのです。
これは、家庭、学校、会社から地域、国家、国際社会まで、すべての集団・社会に共通することではないでしょうか。
「影響力」の強い人物の周りに人々が集まり、その人物の意向を軸にしながらものごとが動いていく。「影響力」の強い者同士が協力し合うことで、その集団の力が最大限に発揮されることもあれば、「影響力」の強い者同士が対立することで、周りの人々が翻弄されることもあるでしょう。
このことは、学校や会社における人間関係を想起すれば、容易に納得していただけると思います。そして、あらゆる人間は、そうした「影響力」の磁場と無縁に社会生活を送ることができないと言えます。
つまり、そのような世の中で、できるだけ自分の思うように生きていきたいと願うならば、「影響力」の磁場に飲み込まれるのではなく、それを上手に活用する術を身につける必要があるということです。
ところが、かつての僕がそうだったように、ほぼすべての人は、「影響力」がほとんどない状態から人生を歩み始めなければなりません。誰もが初めは無力なのです。その無力な状態から、どうやって自分の「影響力」を身につけ、増幅させていけばいいのか? これは、多くの人が思い悩むことではないでしょうか。
もちろん、僕も悩みました。
というか、正直なところ怖気付きそうになったものです。
営業マンになって早々、次から次へと「断り」の連絡が入り、ついには連絡する相手すら尽きてきたときには、この広い世の中でポツンと孤立しているような感覚に襲われたものです。そして、自分の無力さを噛み締めるほかなかったのです。
だけど、今ならば、こう断言できます。
「この世に、影響力を発揮できない人はいない」
「どんなに無力な立場にある人でも、必ず影響力を発揮する方法はある」
極論かもしれませんが、産まれたばかりの赤ちゃんだってそうです。
赤ちゃんは自分ひとりでは、生命を維持することすらできない無力な存在です。しかし、赤ちゃんが両親に及ぼす「影響力」には、ものすごいパワーがあります。
赤ちゃんが泣き出せば、「ミルクがほしいのか」「お腹が減ったのか」「おむつを替えてほしいのか」「抱っこしてほしいのか」などと、言葉の通じない赤ちゃんの気持ちを全力で推察するはずです。そして、なんとか機嫌を直してもらおうと、両親は右往左往するわけです。
なぜ、こんなに強力な「影響力」をもつのか?
言うまでもなく、両親が赤ちゃんを心から愛しているからです。そして、極めて脆い生命ですから、大切に大切に扱わなければならないとわかっているからです。
つまり、赤ちゃんは無力であるからこそ、強い「影響力」を発揮していると言うこともできるわけです。
無力であることも「武器」である
無力であることも、「影響力」の源泉になりうる――。
これは、大人になってからも当てはまることです。
もちろん、赤ちゃんのように、泣くことで「影響力」を発揮するようなことはできません。しかし、無力であることも、「影響力」の源泉となりうるという原理に変わりはありません。
例えば、新卒入社の若者もそうです。
社会に出たばかりで、右も左もわからないうえに、その会社の仕事内容についてもほぼ何の知識もない。しかも、長年かけて築かれてきた社内の人間関係のなかにいきなり放り込まれるのですから、圧倒的に無力。誰かに頼らずには、仕事を進めることはできないと言っていいでしょう。
しかし、だからこそ「影響力」を発揮することができるとも言えます。
昭和の時代であれば、スパルタ式にしごく会社もあったかもしれませんが、今どきは、よほどのブラック企業でなければ、新入社員を大切に育てようという認識が社員に共有されているはずです。
であれば、自分が「戦力になれていない未熟な存在である」という謙虚な姿勢で、「教えてください」「助けてください」とお願いすれば、ほとんどの上司・先輩は、「可愛いヤツだな」と思って、積極的に手を貸してくれるはずです。
この時点で、すでに新入社員は上司・先輩に対して「影響力」を発揮できているということになりますし、上司・先輩の「影響力」の庇護のもとに入ることもできるわけです。
さらに、それに対して、「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えれば、相手は喜んでくれるはずです。そして、「困ったことがあったら、いつでも声をかけてね」などと応じてくれるに違いありません。
このようなコミュニケーションを重ねることで、上司や先輩との信頼関係が築かれていき、その組織のなかに「居場所」を見つけることができます。そして、その新入社員は社内における「影響力」を着実に身につけ、多くの社員の協力を得て大きな仕事も動かすことができるようになっていくわけです。
自分の「現在地」を知ることが「影響力」を生む第一歩
ここで大切なことが二つあります。
まず第一に、「影響力」というものを意識することです。
つまり、どういう態度を取れば、相手の潜在意識においてポジティブな感情を抱いてもらえるかを意識するということ。先ほどの例に即して言えば、どうすれば上司・先輩が「助けよう」という気持ちになってくれるかを考えるということです。
初めから、「影響力」を上手に扱うことができる人などいません。
稀に天才的とも言うべき才能を感じさせる人もいますが、おそらく彼らも試行錯誤を重ねることで、その才能を磨いてきたはず。成功するために必要なのは「才能」ではなく、「意識する」ことです。「意識」が変わることで「行動」が変わり、「行動」が変わることで「相手の反応」も変わる。まずは「影響力」というものを意識しながら、自分の行動を律することが重要なのです。
そのうえで、第二に大切なのが、自分の「現在地」をしっかりと把握することです。