ミズーリ前にある「勝利のキス」像。第2次世界大戦勝利に沸くニューヨークで撮影され、雑誌「ライフ」に掲載された水兵と女性を像にした(撮影/高瀬毅)
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 広島の平和記念公園と米国ハワイ州パールハーバー国立記念公園の姉妹公園協定が結ばれた。パールハーバーとはどんな場所なのか。ジャーナリスト・高瀬毅氏が現地を取材した。AERA 2023年8月28日号より。

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 パールハーバーとはどういう所なのか。筆者は、この7月、パールハーバーを訪ねた。

 ホノルル市の最大のリゾート地域・ワイキキから西へ13キロ。車だと30分の距離。国立記念公園は、ビジターセンター、アリゾナ・メモリアル、戦艦ミズーリ、潜水艦ボーフィン号、USSボーフィン潜水艦博物館、太平洋航空博物館、ユタ記念碑、オクラホマ記念碑などで構成されている。

 日本のメディアでよく取り上げられるのは、湾の少し沖合にあるアリゾナ・メモリアル。日本軍の爆撃で沈んだ戦艦アリゾナの船体が海面から見える。ただ、そこに行くには、ビジターセンターで数分間のビデオ視聴が必要だ。日本軍の奇襲攻撃によって炎上するパールハーバーと黒煙を上げて沈んでいくアリゾナの映像などだ。日本人にとってはつらいが致し方ない。訪れた観光客は厳粛にならざるを得ない。

 しかし、パールハーバーのメインはそこではないことを戦艦ミズーリに行って嫌と言うほど思い知らされる。

 45年9月2日、日本が連合国との間で降伏文書に調印をしたのはミズーリの甲板だ。日本の敗戦は、この日、正式に「決まった」のである。そんな「歴史的」なミズーリが係留されている埠頭(ふとう)までバスで移動するのだが、車内には軽快なハワイアンのBGM。日本語で「現在、バスは戦艦ミズーリに向かっています」とアナウンスがある。日本人観光客の多さを物語っている。ただし周辺の撮影は禁止だ。パールハーバー全体は、あくまで米太平洋軍の基地だからだ。

戦争の悲惨さよりも武力への信奉示す展示物

 ミズーリは威容を誇る。全長270メートル。最大幅33メートル。高さ66メートル。排水量5万3千トン。口径40.6センチの主砲が3砲塔9門。船体の大きさ、排水量、主砲の数と口径の規模は戦艦大和に準ずる。違うのは、トマホーク巡航ミサイル32基、ハープーン対艦ミサイル16基を搭載していること。1944年に就役し、91年の湾岸戦争まで現役だったからだ。

 数十本の星条旗がはためくエントランスを通り、ミズーリに乗船する手前には、水兵が金髪の女性を抱き、覆いかぶさるようにキスを交わす「勝利のキス」像がある。左手には「BATTLE SHOP」という名の売店。若い女性が上腕に力こぶを作り、「I can do it!」と叫ぶイラスト入りの様々なグッズが並ぶ。力こそ最大の価値、女性も戦いに参加するという意味が見て取れる。観光客も多く、アリゾナ・メモリアルと違い、場の雰囲気は「明るく」「軽い」。

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