超大型新人の登場

 藤井の八冠ロードは、これからいよいよクライマックスの段階に入る。永瀬拓矢王座に藤井七冠が挑む王座戦五番勝負は8月31日に開幕。永瀬が防衛すれば5連覇で、史上3人目となる名誉王座の資格を得る。一方、藤井は王位を防衛し、さらに王座を獲得すれば、史上初の八冠達成だ。

 気の早い話だが、もし仮に藤井がすべてのタイトルを制したあと、現代将棋界の熱い物語は終焉を迎え、熱気は去ってしまうのだろうか。おそらく、そんなことはない。この先も長く藤井が主役なのは間違いないだろう。そして登場人物が少しずつ変わりながらも、盤上での熱い戦いは続いていくはずだ。

 つい先日には、超大型新人がタイトル戦の舞台に名乗りをあげた。藤井と同学年で3カ月ほど若い伊藤匠七段(20)だ。

 藤井竜王への挑戦権を争う三番勝負は永瀬と伊藤の間でおこなわれた。結果は伊藤が堂々の2連勝。藤井でもなしえなかった5組からの挑戦権獲得を、伊藤は史上初めてなし遂げた。

 10月6日の竜王戦七番勝負開幕時点で、藤井は21歳、伊藤は20歳。タイトル戦史上、対局者の年齢を足して41歳は、史上最少の記録となる。若き両者がこの先、長く頂点を争い続けるであろうことは、想像に難くない。新たな時代の幕開けを予感させるシリーズとなりそうだ。(ライター・松本博文)

AERA 2023年8月28日号