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作家・延江浩さんが、小説『J』(幻冬舎)を出版した。描いたのは、誰もが知るベストセラー作家の「最後の恋」。彼女がこの本を読んだら、なんと言っただろうか。AERA 2023年8月7日号の記事を紹介する。
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6月に延江浩さんが出版した『J』(幻冬舎)は、85歳の作家で尼僧の「J」と、37歳のビジネスマン「母袋晃平」との恋愛を描いた小説だ。母袋には妻子がいるが、友人を介して知り合った「J」と激しい恋に落ちる。48歳差の道ならぬ恋愛だが、この「J」、読んだらすぐに瀬戸内寂聴さんのことだとわかる。
「これは事実をベースにした小説です。ほとんどがノンフィクションですが、それだと単なる暴露本になってしまうので、想像力で肉付けし、小説の手法を取り入れ、文学にしようと思いました」
会う以上のインパクト
小説であることの象徴として実名でなく「J」としたが、母袋晃平なる人物のモデルもまた実在する。もともと延江さんは、この母袋さんと知り合いで、たまにワインを酌み交わす仲だった。時折、母袋さんはポツリポツリと寂聴さんとの恋の話をしていたという。2021年、寂聴さんが99歳で亡くなったあとに延江さんが母袋さんと会うと、堰(せき)を切ったようにその恋愛模様を語り始めた。
「それはもう、うっとりと。母袋と『先生』との愛は、切実なる愛であり、最近あまりない純愛だと感じた。不倫なんだけど、何事にもとらわれない恋愛がそこに実在したんです」
延江さんはその恋を一冊の本にしたいと考えた。母袋さんに出版の了解を得て、17回ほど話を聞き、事実かどうかの裏どりも念入りにしたうえで、この恋愛が本当だったと確信した。
天台宗の高僧であり、愛に生き、女性の人生を描き続けた大作家をどう描くか。延江さんは、寂聴さんには会ったことがなかった。ただ、寂聴さんの「毛髪」は強烈に覚えている。以前、「瀬戸内寂聴展」にふと立ち寄ったことがあった。展示を見ていくうちに、目に飛び込んだのは、桐の箱に入った黒々とした寂聴さんの毛髪。
「寂聴さんに会う以上のインパクトだったと思う。寂聴さんはある意味、お付き合いしていた男性が死ぬたびに大きくなる人だった。だから僕も食われないようにしないと、と。編集者が読んでやけどするようなものを書いてやろう、逆に寂聴さんを食おうという意気込みで立ち向かっていきました」