シリーズ第1作では巨大水槽を爆破し16トンの水流に流され、「ゴースト・プロトコル」ではドバイの高層ビル、ブルジュ・ハリファで壁登り。だけでは飽き足らず片脚宙づりに。
これ、トムの片脚を掴む役の人も全身冷や汗ものだと思うの。自分にインポッシブルなミッションを課すだけでなく、共演者の勇気も試しがちだぞ、トム。
新作が制作されるごとにどんどん加速するデンジャラス。「ローグ・ネイション」では時速400キロで飛んでいる飛行機のドアにしがみつき、水中ミッションをコンプリートするために潜水して6分以上息を止める訓練をしたという。誰も頼んでないのに命を賭けてそんなに息を止めてくれるのはトム・クルーズと江頭2:50だけ!(ちなみにエガちゃんはかつて「江頭グランブルー」という企画で溺死寸前4分14秒の潜水記録を打ち立てている)
「なぜ自分で(危険な)スタントを行うことにこだわるのか?」と聞かれたトムは、こう答えたという。「ジーン・ケリーに、なぜ自分でダンスをするのかと聞いた人はいないですよね」と。
■トム、あなたはなぜ
いやジーン・ケリーとダンス、エガちゃんと黒タイツはわかる。しかしトム、あなたはなぜそんなにも飛ぶのか、落ちるのか、走り続けるのか。
若き頃は「俺カッコいいぜ」なイケメン街道まっしぐら。アカデミー賞どうしても欲しいターンを過ぎ(失礼な発言)、ある時トムは目覚めたのではないか。年齢を問わず誰もが笑顔になり心から楽しめる場所。
それはアミューズメントパーク。トムは人間アトラクションになったのだ。だって「M:I」シリーズって美女は出てきてもラブシーンはさらりおつまみ。
メインディッシュはトム自身だ。コッコッコッとゆっくり上昇したコースターは、ドーンと落ちてぶん回され回転しながら、空の彼方に放り出される。誰も出来ないことをトムがやる。私たちの代わりに飛び、格闘し、鮮やかにパラシュートを開く。
やがて流れるエンドロールの光に照らされた顔は、アトラクションのライドから降りる時のよう。ありがとうトム、バカみたいに楽しすぎる。やっぱり私たちにはトムが必要だ。
(漫画家&コラムニスト・カトリーヌあやこ)
※AERA 2023年7月31日号