「それまでのRCサクセションとは全く違うサウンド、アルバムになりました」
と高橋さんは言う。高橋さんは、「誤解を招く言い方かもしれませんが」と前置きしたうえで、
「80年の『ラプソディー』、あるいは5人になってからのRCサクセションは非常にコマーシャリズムを意識して、内面のスピリットとビジネスのギリギリのラインをつくようなところで大きくなっていった部分があると思うんです」
と語る。
「その極みが『SUMMER TOUR』や『つ・き・あ・い・た・い』が収録された82年『BEAT POPS』です。『COVERS』の騒動も、いい意味でコマーシャリズムに利用して『コブラの悩み』のトピックやタイマーズヒットにつなげていった。そういったバンドの20周年ということですから、チャボ(仲井戸麗市)さんのエレキギターとG2のキーボードを全面に押し出したド派手なものがくると最初は思っていました」
2人の脱退は、3人の音楽への向き合い方に大きな衝撃と影響を与えたのだろうか。
「自分たちが敬愛して聴いてきた音、ロックンロールやブルース、フォークロックの真髄の部分に入ってしまった。これまでのRC、清志郎さんが意識してきたコマーシャリズムやビジネスとは違う領域になったと感じました」
大きく転換されたサウンドは当時賛否両論あったと高橋さんは振り返るが、「Baby a Go Go」は、サウンドも機材もアナログにこだわって制作された1枚となった。
「ヘンリーは、『1969年のロックができた』と喜んで帰っていきました。さまざまな音楽がデジタルな音になった時代に思い切りアナログな音作りをして、デジタルのCDに落とし込む。挑戦的な作品でもありました」
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そんなアナログな音作りを意識したアルバムは、CD全盛の当時、アナログ盤のリリースは実現しなかった。
2023年6月。当時リリースされなかった「Baby a Go Go」が、アナログ盤として初めてリリースされた。
「アナログでレコーディングされた音は、やっぱりアナログで聞きたい。そういう思いがようやく叶いました」
発売日。高橋さんは昔からRCや清志郎の作品が発売されると必ず店頭に買いにいくことにしてきたというが、
「今回が一番ワクワクしました」
なぜかというと、
「聴いたことがなかったからです、アナログで」
レコードに針を落とす。音質やプレス方法にもこだわりぬいて33年目に初めて発売されたRCサクセション最後のアルバムのアナログ盤の音が、高橋さんをあの頃に連れていく。
「やっぱりCDで聞くのとは違っていました。あのとき実際にスタジオで聞いた音だと感動しました。目の前に清志郎さんやヘンリーがいるような。脱退、そして無期限活動休止……本当につらい時代の作品でした。そんな記憶も一気によみがえりました」
なお、「Baby a Go Go」は、最も売れたRCサクセションのアルバムである。
(ライター・太田サトル)
※AERAオンライン限定記事
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