第1の理由は、元々この首脳会議の終了後に、プーチン氏、パシニャン氏、アリエフ氏の3者会談が予定されていたということだ。テーマはもちろん、ナゴルノカラバフ。パシニャン氏の問題提起は、本来ならその場で持ち出すべき内容だった。プーチン氏の仲介を信用していないという不満を公衆の面前でぶちまける意図が、パシニャン氏にはあったのだろう。
第2の理由は、ラチン回廊の通行管理はロシアの平和維持部隊が担当することが、関係国による合意で決まっているということだ。つまり、アゼルバイジャンが回廊を封鎖しているという批判は、とりもなおさずロシアが責任を果たしていないことへの苦情を意味するのだ。
プーチン氏を遮ったパシニャン氏が批判したかったのは、アゼルバイジャンよりもむしろロシアだったのだろう。
パシニャン氏の不規則発言に対して、アリエフ氏も反論。プーチン氏が不快そうに顔をゆがめたり苦笑いしたりする中、2人は約13分も口論を続けた。
最後にアリエフ氏が笑顔でプーチン氏に「このぐらいにしておきましょうか」と語りかけ、プーチン氏が「そうですね。できるなら、この辺でやめましょう」と応じて、長いやり取りはようやく終わりを告げた。
■予想外の見ものに笑顔
浮き彫りになったのは、旧ソ連の国々の中でのプーチン氏の権威の失墜だった。
アリエフ氏も「この話はこの後3人で続けましょう」というプーチン氏の再三の呼びかけを無視した点では、パシニャン氏と同様だった。
さらに私の印象に強く残ったのは、同席していた中央アジアの大国カザフスタンのトカエフ大統領の表情だ。
予想外のなりゆきにハラハラするどころか、「めったにない見ものだ」とでも言いたそうな、実に愉快そうな笑顔を浮かべていたのだ。
壮麗なクレムリンの大広間に集まった6首脳の中央に陣取ったプーチン氏は、まるで学級崩壊になすすべもない、おじいちゃん先生のようだった。