ユーラシア経済連合の首脳会議で、プーチン氏のメンツを丸つぶれにする光景が繰り広げられた。これまでなら考えられないことだ。ロシアと関係が深い旧ソ連圏で、プーチン氏の権威が失墜している。AERA 2023年6月19日号から。
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プーチン大統領は偉大なロシアの復興を自らに課せられた歴史的使命だと信じて、ウクライナで泥沼の侵略戦争を続けている。しかし皮肉なことに、かつてソ連を構成していた国々の間では、プーチン氏の威光は、急速に衰えつつある。
かつてのプーチン氏だったら考えられないような光景が繰り広げられた。
5月25日にモスクワのクレムリンで開かれた、ユーラシア経済連合の首脳会議のことだった。
ユーラシア経済連合は、プーチン氏が欧州連合(EU)を模して旧ソ連の国々に広げようとしている経済協力の枠組みだ。今のところロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアの5カ国が加盟している。
25日の首脳会議には、5首脳に加えて、アゼルバイジャンのアリエフ大統領がプーチン氏に招かれて出席していた。
各国首脳がひととおり発言を終えて、議長を務めるプーチン氏が会議を締めくくろうとしたときのことだった。
「すみませんが、ちょっとよろしいですか」
口をはさんだのは、アルメニアのパシニャン首相だ。
■メンツが丸つぶれに
パシニャン氏が持ち出したのは、隣国のアゼルバイジャンとの間で抱える領土問題だった。
アゼルバイジャン領内には、アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノカラバフと呼ばれる地域があり、両国間の長年の紛争の火種となっている。この地域とアルメニアを結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」をアゼルバイジャンが封鎖して、アルメニア系住民が人道上の危機にさらされているというのが、パシニャン氏の主張だった。
実はこの発言は、二重の意味でプーチン氏のメンツを丸つぶれにするものだった。