13年から刊行する歌集「新鋭短歌シリーズ」では若手歌人の第1歌集を手がけ、若者から絶大な人気を集める木下龍也さんらが輩出した。
歌人の上坂あゆ美さんは同シリーズの『老人ホームで死ぬほどモテたい』でデビューを果たした。発売前に重版がかかるほど話題になり、現在5刷を数える。歌集を開くとクスッと笑えたり、グッと心をつかまれたりする歌が並ぶ。
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【「明日暇?フラミンゴ見たい」一行で世界の色を変えてゆくなよ】
【わたしたちみんなひとりを生きてゆく 横一列で焼き鳥食めば】
美大卒の上坂さんは「映像、彫刻、油絵、写真などいろいろな表現方法を試したのですが、どこかしっくりこなくて」と話す。卒業後も創作意欲はあるものの、表現方法に関してずっとモヤモヤを抱えていた。そんなある日、一冊の歌集と出合う。
「岡野大嗣さんの『サイレンと犀』を読んで、31文字でこんなに伝えられるんだって思ったんです。短歌ってスマホがあればできるし、これなら自分にもできるかもと思って始めました」
■短歌は一本の木 人生に寄り添う
創作を続けていくうちにどんどんのめり込んでいき、新聞の歌壇コーナーにも投稿するようになった。上坂さんの心をとらえたのは「表現のスピード感」だった。
「美大で経験した表現は、完成までに時間がかかってしまい、自分の表現したいと思う速度に合わなかったんです。対して、短歌はスピード感があって、かつ31文字で読みやすいうえに、伝えられる事柄の幅が広く、『やっと自分に合う表現に出合えた』という感覚がありました」
一方で、上坂さんは短歌を詠むことは「しんどい」とも語る。それでも短歌をつくるのはなぜか。
「自分の話を人に聞いてほしいという強い気持ちがあるからです。『自己開示の化け物』って呼んでいます(笑)。その気持ちを短歌にすれば読んでもらえるというのが大きいですね」
前出の田島さんは短歌の魅力の一つを、「作者の情感を込めることができ、それが共感を呼ぶことです」と語る。