今季の四大陸選手権(2月)を終えた時点で高橋が引退を決意した最大の理由は、古傷を抱える右膝の状態だった。引退会見で「哉中ちゃんに我慢してもらうことがたくさんあった」と語った高橋に対し、村元は時には歩けないほど苦しむ高橋に「膝を貸してあげたい」とさえ思ったと吐露している。

 引退を決めて臨んだ世界選手権(3月)と世界国別対抗戦(4月)で、二人は素晴らしい演技をみせている。世界選手権では日本勢最高タイとなる11位に入り、現役最後の演技となる国別対抗戦のフリー『オペラ座の怪人』では自己ベストを更新。“かなだい”は、最後まで力を尽くして滑り切った。

 世界選手権と国別対抗戦について、村元は「両試合終えて、本当に最高の演技ができたので、今はすごく嬉しく思っています」と達成感をにじませた。

「そして今はやり切ったというか、ずっと目標にしていた『記憶に残る演技』が多分できたと思うので、すごく次のステージが楽しみです」

 一方高橋は、村元がプロとしてもパートナーとして共に歩む決断をしたことに感謝した。

「哉中ちゃんが競技を続けるという選択をせずに引退という選択をしてくれたので、僕自身は“かなだい”カップルとして、まだまだパフォーマンスをやっていきたい」

 困難を何度も乗り越えて最高のチームとなった二人は、プロとして新たな一歩を踏み出す。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」

[AERA最新号はこちら]