豪雪地帯に住む人々にとっては、毎年降り積もる雪の処理に苦労が耐えないことでしょう。
それでも、雪国の人々は雪とともに生活していかなければなりません。
そんな環境の中で生まれたのが「雪室」という天然の冷蔵庫。
そのルーツは、なんと江戸時代にまで遡るといわれるほど、雪室には雪国ならではの知恵が凝縮。
電気冷蔵庫が登場した現代になり何度も消滅の危機に陥った雪室ですが、あらためてその機能性の高さが見直されています。
雪室のルーツをひもとくと……
江戸時代に日本海側から関東まで鮮度のよい魚を運ぶため、雪を詰めた箱に入れて魚を運んだのが雪室(雪中貯蔵庫)のルーツとされています。
時は過ぎ、明治から昭和30年代にかけては地面に掘った大きな穴の中に大量の雪を入れ、ワラなどで覆ってじっくりと冷蔵する新たなスタイルが定着。
雪室は当時、魚、肉をはじめ郷土料理に使う野菜などさまざまな食品の保存に活用されましたが、電気冷蔵庫の普及とともにその数は激減。
それでもいまだに雪室を利用する人々が多い理由は、その高い機能性にあります。
一年中、低温・高湿度の環境
現代の雪室は、蔵などの建物の中に大量の雪を貯蔵する方法に変化し、大型の雪室の場合は700tを超える雪を使用するというから驚きです。
さらに驚くべきは、通年を通して低温状態が保たれること。
真夏でも真冬でも約5℃、湿度90%前後の低温・高湿度が維持される雪室は、電気冷蔵庫に比べ、温度の揺らぎが少ないため食品の細胞が傷みにくく、おいしさもしっかり維持できるすぐれもの。
さらに、電気による振動や光を受けない「静置」状態は、食品の旨みを増す低温熟成に最適の環境といわれています。
雪室でおいしさ倍増に
野菜、肉、米はより甘みが増し、お酒はよりまろやかな味になる……。
食品本来の美味しさにさらなる旨みを加味する伝統的な貯蔵法「雪室」は、まさしく雪とともに暮らしてきた先人たちの知恵が結集。
米どころが多い雪国ですが、どうしても高温多湿の夏は虫の害で米の味が落ちてしまいがちですが、雪室で米を貯蔵すれば新米同様の味を保てるばかりではなく、出荷当時と香りを保てるメリットも。
その証しに、雪中貯蔵庫である雪室で貯蔵された食品は、その美味しさが全国のグルメの間で評判となり「雪室ブランド」は高い人気を誇っています。
新たに見直される、エコな雪エネルギー
電気を使わない雪室は、エコロジーの視点からも注目を集めています。雪1tは石油10ℓと同じエネルギーを生み出すとされており、二酸化炭素30kgを抑制する効果に匹敵します。
この雪室の機能は夏季は冷房としても利用され、一年を通してエコな生活をすることができます。
雪国で生活している人々にとって、たった数日で軒先まで降り積もる雪は厄介な存在ですが、エネルギーとして再利用することで自然との共存をはかれるため、その存在はいま新たに見直されつつあるのです。
2014年4月に東京都目黒区に降った季節外れの雪、同じく立夏を過ぎた5月半ばに北海道の北見峠で観測された積雪29cmなど、今年は降雪に関する驚きのニュースが相次いで報告されました。
雪への新たな視点、それぞれの土地の自然に合った雪の活用法が早急に求められているかもしれません。