『YSIV』ロジック(Album Review)
『YSIV』ロジック(Album Review)

 昨年~今年にかけてブレイクしたアーティストを挙げるなら、ロジックの名前は欠かせない。2017年は、自殺志願者に向けたメッセージ・ソング「1-800-273-8255 feat.アレッシア・カーラ&カリード」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”最高3位の大ヒットを記録し、同曲収録の3rdアルバム『エブリバディ』が自身初のNo.1獲得。さらに今年3月にリリースされたミックステープ『ボビー・タランティーノII』で、2作連続の全米首位獲得を果たし、本作からは「44モア」(R&B/ヒップホップ・チャート13位、ラップ・チャート10位)、マシュメロとのコラボ・ソング「エブリデイ」(R&B/ヒップホップ・チャート16位、ラップ・チャート13位)の2曲がチャートを荒らした。

 本作『YSIV』は、その『エブリバディ』から1年半ぶり、4作目となるスタジオ・アルバムで、2011年リリースの『ヤング・シナトラ』、2012年の『ヤング・シナトラ:アンデニアブル』、2013年の『ヤング・シナトラ:ウェルカム・トゥ・フォーエバー』の3作のミックステープに続く、“ヤング・シナトラ・シリーズ”の第4弾・最終章となる。『ボビー・タランティーノII』もそうだが、彼の作品はこうしてシリーズ化するものが多い。

 アルバムからの1stシングルは、ワン・リパブリックのライアン・テダーをフィーチャーした「ワン・デイ」。ライアンとノー・I.D.率いる音楽プロダクション=コケイン・エイティーズによる制作で、キャッチーなフックと聴き心地良いロジックのラップが、我々日本人の耳にもよくなじむ。カニエ+ブルーノ・マーズみたいな(?)ちょっと狙い過ぎた感は否めないが、大衆を巻き込む“わかりやすいシングル曲”としての役割を果たしている。長編のMVも見ごたえがあった。

 一方、2ndシングルの「ザ・リターン」は、ニーナ・シモンの「ワイルド・イズ・ザ・ウィンド」(1966年)と、カニエ・ウェストの「クラック・ミュージック」(2005年)を2曲使いした、ちょっとシブめのヒップホップ・トラック。カニエ流フロウ&トラックまんま……という気がしないでもないが、1周回って新しい感じもする。「100マイルズ・アンド・ランニング」では、インクレディブル・ボンゴ・バンドの大ネタ「アパッチ」(1960年)と、エイサップ・ファーグの「ワーク」(2013年)の一部がサンプリングしている。「アパッチ」効果で、ビンテージ感漂うブレイクビーツのような仕上がりに。この曲は、ラッパーのワーレイと、ロジックのレーベル<Elysium>所属のジョン・リンダールというシンガーが、ゲストとして参加した。

 アルバム・プロデュースは、 『エブリバディ』 ~ 『ボビー・タランティーノII』など、ロジックの作品には欠かせない同郷・米メリーランド州の音楽プロデューサー=6ixが担当。「1-800-273-8255」のニュアンスが含まれた「サンキュー」で幕をあけ、カニエの「バリー・ボンズ」(2007年)を拝借した、DJカリル作の「エブリバディ・ダイズ」~「ザ・グロリアス・ファイブ」と、90年代に回帰したようなクラシック・ナンバー(風)が続く。タイトル曲の「YSIV」も、ナズの「ライフズ・ア・ビッチ」(1994年)がネタ使いされていて、まんまナインティーズ。当時のヒップホップを愛聴する方には、色んな意味で楽しめる内容になっている。特に、ウータン・クランのメンバー全員が参加した「ウータン・フォーエバー」はたまらないだろう。何せ、ジャックポット・スコッティ・ウォッティまでクレジットされているんだから……。

 「ストリート・ドリームズII」や、ジェイデン・スミスが参加した「アイコニック」などのハードな曲もあれば、「スターヴィング」でブレイクしたヘイリー・スタインフェルドとのキュートなデュエット曲「オーディナリー・デイ」や、<Elysium>所属のビッグ・レンボーとKajoが参加した「ザ・アドヴェンチャーズ・オブ・ストーニー・ボブ」など、メロウな曲もバランス良く配置されていて、飽きないし聴きやすい。10分超えの大作「ラスト・コール」は本当に良い曲。こういう曲でアルバムを聴き終えると、「いいアルバムだったな」って思えるね。

 7月には、現在およそ80曲の未発表曲があると公言していたロジック。そのうちの14曲が本作に収録されたものだとしても、残り66曲もあるってことは……年内にもう1枚くらいミックステープがリリースされそうな予感。音の流行は目まぐるしく変化していくから、良い作品は出し惜しみしない方が良い気もするけど、本人も「最高傑作」と豪語するくらい、本作に厳選されたタイトルがかなり良かっただけに、残り物でまとめたみたいなアルバムなら、あえて世に出す必要はないのかもしれない。

 ちなみに、本作でCDやLP盤などのフィジカル・リリースを最後にすると発表したロジック。“期間限定”ということで、パッケージ・セールスも期待できそうだが、これ、次作で「やっぱり出す」みたいな展開もある気がする……。

Text:本家一成