世界中の音楽ファンが待ちに待っていた、3年半ぶりのニューアルバム『Colors』をリリースしたBeck。リリース直前に緊急来日公演の開催がアナウンスされたこともあり、それと同時に先行シングルとしてリリースされたアップリフティングなナンバー「Up All Night」は、JAPAN HOT 100においても5週連続(10/9~11/6)チャートインを果たした。ここ日本においても待望のリリースであったことがチャートからも見て取れる。そして、フラゲ日の関係上、なんと日本が世界最速のリリースとなった本作『Colors』は、10月23日付けのHOT ALBUMSで12位にチャートイン。そして同アルバムを引っ提げ、10月の23日と24日に2日連続で行われた日本武道館、新木場Studio Coastでの来日公演は、どちらも大盛況で幕を閉じ、Beckは我々の期待にそれ以上のパフォーマンスで応えてみせた。
そんな、今一番ホットな作品である『Colors』。その名の通り、原色でビカビカした様々な楽曲へのアプローチ、レコーディング技法、リスナーを最後まで飽きさせることのない曲順。1曲目「Colors」の最初の10秒のドラムの音で完全にぶちかまされた。
何と言っても、今回のアルバムは一つ一つの声や楽器、メロディ、ハーモニー。何をピックアップしても、鮮明で目の前に音像が広がってくる。スピーカーの前にいると、3D映画でも見ているかのような体験ができてしまう。
ミックスを手がけたのはSerban Ghenea(最近の作品だとP!NKのアルバム『Beautiful Trauma』、TAYLOR SWIFTの「...Ready For It?」、maroon 5の「WHAT LOVERS DO(FEAT.SZA)」)。彼の魔法の調理にかかると、曲が美味しく仕上がってしまうのだろう。それと今回、忘れてはいけないのが、共同プロデュースで参加しているGreg Kurstin(最近の作品だとAdeleの「Hello」、Foo Fightersのアルバム『Concrete and Gold』、Siaのアルバム『Everyday Is Christmas』をプロデュース)の存在。彼の卓越したポップセンスがBeckと共鳴して、さらに良い倍音を鳴らしあって、唯一無二な作品が出来上がっていったのだろう。
個人的な感覚でいうと、Kylie Minogueの『X』(2007年リリース)にGregが関わった時の雰囲気に音像が似ている。キックやスネア、楽器のフレーズをサンプリングして構築していく、ヒップホップ的なサウンドメイキングを多用しているように思う。
ヒップホップといえば、Beckの作品は昔からオマージュのような技法も多く見受けられる。初期の作品「Devils Haircut」や「Hotwax」なんかも、RUN-DMCの「Raising Hell」やGrandmaster Flashの「The Message」などの、ゴールデンエイジ・ヒップホップと呼ばれた時代の良質なサウンドをサンプリングしている。「Tropicalia」なんかも、Caetano Velosoの「Tropicalia」やGilberto Gilの「Expresso 2222」などの、トロピカリズモ以降のブラジルサウンドを上手にサンプリングしている。
Beckはいつの時代の作品も、ルーツミュージックへの深いリスペクトの念を図りながら、その時に起こっている社会問題に対峙してメッセージを発する。そうすることによって、タイムレスな音楽で、リスナーをハッピーな世界に連れて行ってくれているのだ。音楽業界的にも、今が最も”変化”の時代に突入している。彼がインタビューで答えていた「本当に素晴らしい音楽は、時代や流行に関係なく万人に受け入れられるんだ」という言葉が、この『Colors』で伝えたいことなのだと思う。Text by 横山裕章 (agehasprings)