この本の「言いたいこと」とはほとんど関係ない部分への感想なんだが、アメリカのアーティストでマシュー・バーニーさんという人が出てくる。この人はイェール大医学部卒で、フットボールの特待生で、モデルで、サンフランシスコ近代美術館で史上最年少の展覧会が開かれた天才。パートナーはビョークだそう。で、日本でこういう人はいるか、と考えて思いついたのが伊勢谷友介。芸大出のモデル。ビョークに相当するのは広末涼子か(広末とはさっさと別れてたが)。だが、このスケールの小ささ。やはり戦争に負けるわけだな、と思わされる。
ここで言及されるアートは「絵」や「彫刻」のようなわかりやすいものじゃなく「インスタレーション」とかなので、文章と、説明写真一枚ぐらいだと、かえって想像がふくらんで「すごいものなんじゃないか」と思える。そのような「アート紹介文」がいっぱいでとにかく面白く、繰り返し読んでしまう。ちなみにマシューさんのアートについては、ネットで調べてもう少し詳しいものを見たらけっこうガッカリした。想像のほうがよかった。ピピロッティ・リストさんの映像作品は“女性用のポルノビデオ”じゃないかとまで言われるアートらしいので見たくてしょうがないが、ネットでは見つけられなかった。しかしこれは説明文を読んで、自分にはエロの役に立たんなーと思った。
さて、ちょっと前は「青年実業家」「IT企業」というあたりが「うさんくさい商売」とされていたが、現在私の思う「うさんくさい肩書」が「オーガナイザー」と「キュレーター」だ。本書で仕事の内容はよくわかった。でも「展覧会の企画プロデューサー」でいいじゃん別に。
「共犯者として、共同生産者として」などという章サブタイトルには後ずさりしたくなる。帯に著者の顔写真がデカく出ていて、それはキュレーション的にいってどうなのか。私は「まずい」と思うのだが。
週刊朝日 2013年3月29日号