ウクライナ戦争の勃発から1年経つが、停戦の見通しは立っていない。西側諸国が武器給与を拡大すれば、戦争がエスカレートする可能性もある。どうすれば戦争を止められるのか。元外交官の東郷和彦さんと慶應義塾大学教授の廣瀬陽子さん。ロシアに詳しい2人がウクライナ戦争について意見を交わした。AERA 2023年3月13日号の記事を紹介する。
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廣瀬:ロシアは中国に仲介してほしかったみたいですね。ガルージン前駐日ロシア大使は「中国に頼んだけれど、イエスと言ってくれなかった」と言っていたそうです。私がウクライナの外交団に中国仲介の可能性を聞いたら、「あり得ない」と言っていましたけど。
東郷:しかし、現状では停戦に向かうインセンティブがどこにもありません。特に今年に入ってから、戦車にはじまり、長距離ロケット砲や戦闘機など兵器供与の話題で盛り上がるばかりです。武器がエスカレーションすればするほど、戦禍は大きくなります。そこにずるずるっと押し込まれていくと本当に恐ろしいことになる。
廣瀬:確かにそうですね。戦闘機が投入されれば、今度はロシアが戦場になり、難民が大量に出ます。ウクライナ難民に対しては、みんな同情して支援していますが、ロシア難民が同じ支援を受けられるのか。単に難民が出るだけではなく、新たな問題を生み、相当混乱すると思います。
東郷:やはり一日も早く戦争をやめるための「出口戦略」を考えるマインドに切り替えていく必要があります。そのためには「ロシアはウクライナから全面撤退しろ」という主張では絶対にダメです。「双方が負けていない」というギリギリの線を見つけ出す。ロシアに「お土産」をだすことになる。
廣瀬:私はロシアにお土産を与える解決には反対なのですが、確かにお土産を用意すれば、ロシアが交渉に応じる可能性は高いです。その場合、ロシアへのお土産の最低限のラインはクリミアと東部2州(ルハンスク州、ドネツク州)でしょう。クリミアは絶対に放棄しないでしょうし、東部2州についてはそもそもそこにいるロシア系住民を救うことを理由に始めた軍事作戦なので、国民に説明がつきませんから。ウクライナのゼレンスキー大統領は停戦交渉の前提として「一人たりともロシア兵がウクライナにいない状態」を求めていますが、クリミアにはもともと合法的にロシア軍がいたこともあり、細かい問題がいろいろとあると思います。